夜明けの向こうへ行く時は

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鼻をすすりあげる音と「ごめん」の呟きとともに、圭太がゆっくり離れた。 耳まで赤く涙に濡れた顔。 その顔に小さな頃の圭太が重なる。 淋しいくせにそれを隠して強がって、1人こっそり泣いていた。 そんな弟が哀しくて愛しかった。 でももう、圭太はあの頃の圭太じゃない。 「圭太」とそっと呼びかけて髪に触れた。 掠めたほおから指先に熱が伝わって、体にじわりと侵食する。 「弟だったのに」 「え?」 「ちゃんと、考えるから」 「それって…….」 「圭太の、と、自分の気持ち」 「栞」 名前を呼ぶ圭太の声が甘くて戸惑う。 夜の色に染まっていたその目にかすかな光が宿る。 熱を孕んだその光に私が手を伸ばしていいのか、まだ分からない。 でも、圭太のそばにいたい。 そう思う気持ちが、恋愛なのか家族愛なのか。 その答えを、私は知りたい。 圭太が私の手をとった時、ふいに左から差してきた光に誘われるように横を見た。 「……夜が」 つられて横を見ると、山際の空と川の水面がやわらかな朝焼け色に染まっている。 ピンクとブルーとパープルの複雑に混じる優しい色。 そこに、一条の金の光。 「明けるね」と囁くと、圭太が繋いだ手に力を込めた。 もうすぐ、夜明けだ。 圭太と一緒になら、その向こうを見てみたい気がした。
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