抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい

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 先ほどよりも表情を和らげたベニーに、女性は苦笑いを浮かべて静かに頷く。さっきから湿気た話ばかりを聞いていたせいか、あくびが出てしまった。 「先輩、貴方って人はまったく。マイペースを貫くその神経を見習いたいです」  ベニーは呆れて俺の鼻を突っついた。離れていくその指を狙って、パンチを繰り出してやったのに、俺の動きを悟ったのか、あっけなくかわされてしまった。 「ロレザス先生は、このままでいるおつもりなんですか? 彼になにも明かさずに過ごしていくつもりなのでしょうか」 「私の見守り人が自分の想いを隠したあのときのように、私も前のことを胸に秘めながら、彼の余生を見届けます。来世がどうか幸せになりますようにと」 「そんな……」 「彼がどんな姿になっても、今の彼の人生を後悔なく過ごしてほしい。つらい想いなんて知ってほしくはないのです」 「にゃぁあっ!」  話をぶった切る勢いで大きな声で鳴くと、ベニーの手によっていきなり首の付け根を摘ままれて、肩から強引に降ろされた。女性に見せつけるように首吊り状態で晒されたのを脱却すべく、手足をじたばた動かしたが、腕の長いベニーの手をなんとかすることはできなかった。 「ロレザス先生の立場になったら、私はきっと前世のことを告げてしまうと思います」 「告げたところで、彼にはどうすることもできないのです。それどころか、知ったことで苦しむかもしれない。私を恨む可能性だってあるのです……」  俺は今のこの現状を恨んでるけどな! 「恨むなんてことはしないはずです。だって! だって愛する人をそんなふうには」 「愛と憎しみは表裏一体。絶対なんてありえません。先輩、いい加減に諦めてください。人の話を中断させたのですからね」 「う~っ……」  俺が仕方なく大人しくなると、いつものようにベニーの肩に移動させてくれる。あたたかみを肉球に感じただけで、自然と安心感が増すから不思議だった。 「凛花さん、私のような悲しい結末にならないように、勇気を出して彼に告白してください。うまくいくことをお祈りいたします」 「ありがとうございます。もう少しだけ考えてから、キースに告白しようと思います。それでは失礼します!」  艶やかに笑った女性は俺たちに一礼してから、足早にどこかへ向かった。 「あのふたりが幸せになるといいですね」  ベニーが俺に告げたのかと思って、返事をしようとしたら。 「こんな回りくどいことをして、やっと踏ん切りがつくとか、困った者たちだ」  まったく人の気配を感じなかった背後から、聞いたことのない男の声がした。俺は振り返りながら身構えると、なにもない暗闇から音もなく男が現れる。得体の知れない者が現れたというのに、ベニーは俺に背後をまかせたまま、その場に立ちつくした。
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