抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい

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 黒ずくめの男の瞳の色が普通に戻った瞬間、ベニーの躰がぐらりと大きく揺れた。  乗っている肩から振り落とされないように、爪を立てて衝撃に備えたら、銛を持っているはずの手が、素早く俺の背中を押さえる。目にする景色が一気に変わったことで、ベニーが跪いたのがわかった。 「人間界でいうところの金縛りという技をかけてみたのだが、隙を作るどころが己すら守れなかったな」  黒ずくめの男は蔑む目で、俺たちを見下ろす。あまりにも惨めだったので、跪いたベニーの肩の上で、毛を逆立てて唸ってみたが、鼻を鳴らして笑われてしまった。  ベニーは苛立つ俺を宥めるように、俺の背中を撫でながら、ヤツに話しかける。 「人間の魂を食さなければならない私は、普通の人間よりも弱いですから、当然のことだと思います」 「それでも俺に抗ってみせるか?」 「まさか! 私たちに危害を加えないことがわかったのに、抗うなんて無駄なことはしません」 「賢明な判断をしたも――」  黒ずくめの男がなにかを言いかけた刹那、ベニーは体を揺らすことなく、俺の背後からいきなり銛を投てきした。いつもより勢いのない銛は、ヤツの顔面に目がけて投げられたが、黒ずくめの男は首を横に傾け咄嗟に回避するも、かすり傷が頬にでき、うっすらと赤い血が滲む。 「ベニー・ロレザス、貴様っ!」 「隙を作ると言ったはずです」  俺は急いでベニーの肩から降り、少しだけ距離をとった。投げた銛の柄には、手元に戻すための赤い紐が付いている。それを戻すのに、俺がいては邪魔になると判断して離れたのだが――。 「隙を作って、このあと俺をどうしようというんだ?」  怒りに満ち震える声をあげた男の手袋が一瞬だけ光ると、銛の赤い紐からぶわっと火があがった。 「俺が与えたおまえの武器は、この場では使えない。どうする?」  ベニーは慌てて、持っていた赤い紐を放り投げる。しかし炎は両手から体を一気に包み込み、メラメラと音をたててすべてを燃やしつくそうと、大きくなっていった。 「に゛ゃああぁ!」  俺は腹の底から、ベニーの名前を叫んだ。 「先輩、近づいては駄目です!貴方を巻き込むわけにはいかない。ここで死なせるわけには」 「んにゃ、うにゃにゃにゃにゃ…にゃぁあ!」 (なにを自分勝手な、バカなことをいいやがって!)
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