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夕暮れの始まった庭はとても美しい。庭の木々が1日の最後の日差しに枝葉を存分に伸ばすように日差しを受け止め、その向こうには広々と広がるロンドンで一番広いヒースの丘が見える。そして、書斎からゆっくりとこの景色を楽しむのがおばあちゃんのお気に入りだった。
1年前のあの日。
おばあちゃんとわたしは今と同じような7月の夕暮れを眺めていた。
「あの男の子と出会ったのはね、あのヒースの丘の上なのよ」
おばあちゃんはチャーミングなウィンクをしながらわたしに聞かせてくれた。赤毛の男の子と出会ったときのこと。何度聞いても飽きないとても不思議な物語で、わたしがまだ知らないたくさんの感情がぎゅっと詰め込まれているものだった。
「ねぇ、それはおばあちゃんの初恋の人?」
そう言うとおばあちゃんの頬は真っ赤に染まった。わたしにもいつかそんな出会いがあるといいなぁ、そう羨ましがるわたしに、おばあちゃんはにっこりと微笑んでくれた。
「大丈夫。クレアにはクレアの素敵な出会いが待っているし、それに……」
おばあちゃんは沈みつつある太陽に目をやった。ヒースの丘を染め上げ、庭を染め上げ、おばあちゃんの書斎も同じように鮮やかな夕暮れに染め上げている光の向こうを見つめていた。
「あなたも彼に会えるわよ。ううん。合わせてあげる。遠い昔に、彼と約束したことがあるのよ、あなたが代わりに渡してくれると嬉しいわ」
そう言って、おばあちゃんは引き出しから本を取り出した。今まで見たことのない装丁の本で、タイトルは書いていなかった。
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