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「新しい本?」
新作なら私だって読みたい。
おばあちゃんは大事そうに本の表紙をゆっくりと撫でる。
「むかーし、約束したの。彼と私の物語を書き上げるって」
それならおばあちゃんはもうたくさん書いている。私がそう言うと、おばあちゃんはあいまいに首を振った。
「これは特別。これは本当の私の物語なの」
赤い皮の表紙にはうっすらと金の文字が記されている。おばあちゃんの名前と彼の名前が記されていた。首をかしげる私の手をとって、おばあちゃんが私の目を覗き込んだ。真剣な話をするときの眼差しだった。
「1年後の今日。彼はこの本を受け取りにきてくれるの。あなたが渡してくれる?」
「でも、おばあちゃんは?」
そう尋ねた私におばあちゃんは柔らかく微笑んだ。おばあちゃんの初恋の人なんてもうとうの昔におじいちゃんだろうから、会うのが恥ずかしいのだろうか。そう思った。
そして1年後の今日。
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