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彼はわたしの中の何かを読み取るようにしていたけれど、ピタリと動きを止めた。
「そっか……」
男の子の声が少し低くなり、本に伸ばしていた手を下ろして何かに祈るようにそっと頭を下げた。赤い髪の毛、青く輝く瞳。目の前の彼が誰だかわたしはようやく気づいた。ぎゅっと本を抱えていた腕の力が抜けていく。
「これ、あなたにって」
差し出した本に彼が手を伸ばす。
「ありがとう」
そう彼が言ってようやく顔をあげた。彼の顔を見た! と思った瞬間、窓から強い風が吹いてきて思わず目を閉じる。そして、同時に扉が開いてパッと灯りがついた。
「クレア? 大丈夫?」
母さんだった。
すっかり夜が降りてきた庭を背にして心配そうに部屋を覗き込む。
「うん、大丈夫ちょっとお別れしていただけ」
母さんが、泣き笑いのような顔を浮かべてうなずいた。
「そうね。今日はおばあちゃんのためにたくさんの物語が生まれそうね。さぁ、エミリーたちも待ってるからお茶にしましょ」
すっかり夜に満たされてしんと静まり返ったおばあちゃんの書斎をもう一度だけ振り向いた。あの赤い皮の本はどこにも見当たらなかった。そっとドアを締めながら思った。
今度はわたしが彼の物語を書いてみたい。
いつか、もう一度会いたいな。
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