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最後の弔問客が帰ると、ようやく家が家らしい呼吸をはじめた気がした。
みんな、やれやれといった感じでリビングに落ち着いた。
「私、お茶いれるね」
いとこのエミリーがそう言ってキッチンに向かう。おばさんと母さんはたくさんの人に囲まれておばあちゃんのことを聞かれ続けていたからさすがにぐったりしている。もうどんな物語も残っていないという感じだった。
私はテーブルの上に置かれた赤毛の男の子の人形を手にとる。何年か前に、おばあちゃんの絵本が大きな賞を受賞したお祝いにいただいたものだった。風に乗って世界を冒険する男の子。夢を叶える勇気をくれる青い瞳の男の子。おばあちゃんの宝物。
おばあちゃんは英国では有名な児童小説作家だった。おばあちゃんが生み出した赤毛の男の子のキャラクターは、英国中の本屋どころか、今ではアメリカや日本でも大人気だと聞いた。窓の外にはおばあちゃんの書斎だった離れの部屋が見える。7月の日は長い。ゆっくりと始まった夕暮れが、おばあちゃんの部屋に差し込み、デスクの上に差し込むのが見えた。
「来なかったな」
私の小さなつぶやきを母さんが拾う。
「何?」
「ううん。なんでもない。わたしも、おばあちゃんの部屋の戸締り確認してくるね」
「悪いわね」
母さんとおばさんのすまなそうに顔にちょっと心が痛む。本当は一人でおばあちゃんの書斎に行きたかっただけだった。
だって、わたしにはおばあちゃんとの約束があるから。
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