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とりわけクリフォードはこのスケート遊びを気に入っていました。
「僕はこうして滑っているときが一番楽しいよ」
「そうなの?」
「何というか、こうして滑っているとね氷と対話している気分になる。それに風とも一体になれる気がするんだ」
「何だか、難しいわ」
「そうでもないさ。ただ、ありのままの自分で自然と触れ合うんだ」
そう言って、彼はそれはそれは軽やかに氷の上を滑って見せました。
その時の彼の滑らかな動きは実に見事で、本当に氷と対話しているように見えました。風と一体になっているようにも。
私はクリフォードと一緒に滑りたかったので、そうやって一人の世界にのめりこむのは嫌でした。
一番近くにいたはずの彼が、何だかちょっとずつ遠くへ行ってしまうような感じがして。
だから、私もスケートを上手になろうと頑張りました。
でも、私が上手くなるよりずっと早く彼はスケートにのめりこんでいったんです。
「氷と対話するとね、凄く美しい軌道を描くことができるんだ」
「風と一体化するとね、凄くスピードを出すことができるんだ」
そんな事を言いながら、スピードを出す事とか、美しいターンとかを突き詰めていくのに熱を上げていました。
「ねえ、今のターン見た? 凄く綺麗だったでしょう」
「このスピードには誰もついてこれないよね」
「ジャンプしてさ、着地までの間に回るんだ。美しくない?」
その姿はとても楽しそうだったけれど、私としてはもっと一緒に滑りたかったんです。
だからかもしれません。彼の存在が私の中でどんどん遠くなっていくのを感じました。
「もっと氷と対話したいよ」
「もっと風と一体化したいよ」
「僕のありのままを自然に受け止めてほしいんだ」
そう言って、昼も夜も彼は氷の上を滑り続けました。
どんどん彼が遠くへ行ってしまう。
そんな感じがして、私は焦りました。
だけど焦っても良い事なんかありはしないのです。
私が焦れば焦る程、彼は遠ざかって行きました。
そして、あの日が来たのです。
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