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「とりあえず、和泉式部さん。貴女は1000年程前に、亡くなっている方でしょう?どうして、黄泉の国から現世にやって来はったんです?」
和泉式部に問い掛けると、彼女は一瞬沈黙した後、
「……『人はいさ われは忘れず ほどふれど』。貴方にお会いするために、参ったのですわ」
と言って、妖艶に微笑んだ。
(あなたはどうだか分からないが、時が経っても、私は忘れていない……か。でも、違うな。敦道親王に似ているという僕に会ったのは偶然や。彼女には、何か他の目的があるはずや)
けれど、和泉式部はその理由を話す気はなさそうだ。
助けを求めて誉にちらちらと視線を送ると、「早く離れろ」と口パクで言っている。面倒なことに巻き込まれたくないのだろう。
「ええと、和泉式部さん。僕らは今、宵山を回っている最中やから、もう行きます。せっかく現世に出て来はったんや。貴女も祇園祭を楽しんで行かはったらどうですか?」
当たり障りのない笑顔を見せて、彼女の体を離した。
「あん……」
和泉式部が色っぽい声を出して、唇を尖らせる。
「それじゃ」
「愛莉、行くぞ」
僕は和泉式部に軽く手を振り、誉も、何も見えず成り行きがよく分かっていない愛莉さんの背中を軽く押して歩き出した。
すると――。
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