2.陰陽師が見る宵山

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「お待ちください、宮様」  僕のシャツが、背後からくいっと引っ張られた。振り返ると、 「わたくしも共に参ります。宮様は、『祇園祭を楽しんで行かれては』とおっしゃいました。では、わたくしは、存分に楽しもうと思います。そのために、どうぞ、宵山を案内してくださいませ」 和泉式部がにっこりと微笑んでいた。そのまなざしに、頷かなければ手を放さないと言う頑とした意志を感じ、僕はやれやれと溜息をついた。どうやら今夜は、この姫君に付き合うしかなさそうだ。 「……それなら、一緒に行かはります?」  困りながらも微笑みかけると、和泉式部は、 「はい。どこへなりとでも」 と嬉しそうに僕の手を取った。   「……颯手」  誉がじろりと睨んで来たので、 「まあ、ええやん。ちょっとぐらい案内してあげても。満足したら帰らはるかもしれへんし。それにこのお人は、害があるようには感じられへんよ」 と言うと、誉はガシガシと頭を掻いた後、 「確かに害はなさそうだ。――考えてもみれば、現世と異界がごっちゃになっている宵山の夜に、平安時代の霊と山鉾を回るのも一興かもしれないな」 と苦笑した。
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