2.陰陽師が見る宵山

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 烏丸通を北へと曲がると、すぐに孟宗山(もうそうやま)という舁山が現れた。山の前後には、紋の入ったたくさんの提灯が、将棋の駒の形のように吊られている。  舁山は輿のような形をしており、もともとは人が担いで巡行していたらしい(今は補助輪があり、押している)。胴組の上に舞台が作られ、山に見立てた籠を乗せ、松を立て、故事や謡曲の一場面を表した御神体人形が乗せられる。  孟宗山は、孟宗という昔の中国の人が、真冬の竹山で母親の為にタケノコを探したという親孝行の逸話にちなんだ山で、巡行当日になると、孟宗の御神体人形が乗る。  御神体は宵山期間中は会所に飾られているので、今は何も乗っていないはずなのだが、山の上には、立派な口ひげを生やした着物姿の笑顔のおじさんが座っていた。そのおじさんに、鎧姿のこれまた立派な口ひげのおじさんが、難しい顔で下から何か話しかけている。明らかに人ではない様子のおじさんたちを見て、ピンと来る。 (あの人たち、きっと山の御神体の化身だわ)  立ち止まって思わずじっと見つめていたら、ふたりがわたしに気がついて、こちらに視線を向けた。 (あっ、気づかれた)  パッと視線を反らすと、 「どうしたん?星乃さん」 隣にいた追坂君が不思議そうな顔でわたしを見ていた。 「知り合いでもいたん?」 「ううん。違う」  もちろん、追坂君に御神体の化身は見えていない。 (神様を見たって言ったら、話がややこしくなる)  わたしは慌てて首を振ると、 「何でもないわ」 と言って誤魔化した。 「ほんま?もしかして、約束してたっていう人が来てたとか……」  追坂君は、わたしが約束を反故にした相手の姿を見つけて、隠れる様に視線を反らしたと思ったらしい。心配そうにわたしの顔を見下ろした。  わたしたちが立ち止まっている間に、実穂と横田君は先に歩いて行ってしまっている。わたしは追坂君の腕を軽く取ると、 「本当に何でもないの。ふたりに置いて行かれちゃう。さあ、行きましょう」 と引っ張って急かした。すると――。 
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