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「おい、娘」
居丈高な声で呼びかけられ、わたしは吃驚して、
「きゃあっ」
と声を上げた。振り向くと、先程の鎧姿のおじさんが、偉そうに腕を組み、わたしたちを見ている。
「わっ!誰、この人!?」
わたしと同じように振り向いた追坂君が、おじさんを見て、目を丸くした。そんな追坂君に、わたしは更に吃驚してしまった。
「追坂君、もしかして、この人が見えているの!?」
「えっ?目の前にいるおじさんなら、見えてるけど……?」
わたしが何を言おうとしているのか分からない様子で、追坂君が困惑した表情で小首を傾げた。
(どういうこと?追坂君も、人ならざる者を見ることが出来るの?)
「この人なんで鎧を着てるはるんやろ。宵山に、時代まつりみたいなイベントあったっけ?」
追坂君がわたしの耳元で囁いたので、
「違うと思う」
と首を振りながら、どのように説明したらいいのだろうと考える。それに、なぜ彼には人ならざる者が見えているのだろう。
「お前たち、何をごちゃごちゃ言っている。私の話を聞け」
こそこそと会話をしていたわたしと追坂君の間に割り込むように、おじさんが身を乗り出した。おじさんが間に入ったので、わたしの手は、自然と追坂君の腕から離れる。すると、
「あれ……?今、居はった、おじさんは?」
追坂君が目を瞬いて、不思議そうな顔になった。
「ねえ、星乃さん。今、目の前に、鎧姿のおじさんが居はったよね?」
「うん、いるわ。まだここに」
(えっ?見えていたと思ったのは一瞬で、やっぱり追坂君には見えないの?)
訳が分からない気持ちで追坂君の顔を見つめていると、
「星乃さん。何だか気味が悪いから、早く行こう」
追坂君がわたしの手を掴んだ。その瞬間、
「わあっ!」
と彼は再び驚きの声を上げた。
「おじさん、やっぱりいた!」
どうやら、再び、おじさんの姿が見えるようになったようだ。
「えっ?なんで?どうなってるん?おじさんが消えたり現れたり……」
頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになっている様子の追坂君を見て、わたしはハッと気が付いた。
(もしかすると、わたしが追坂君に触れている間だけ、彼は人ならざる者が見えるのかもしれない)
それを確かめるため、追坂君から手を離し、もう一度手を握る。すると、追坂君は、
「あれっ、また消えた……あっ、また現れた!何でやねん」
すっかり混乱した様子で頭を抱えてしまった。
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