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おじさんをよけて立ち去ろうとしたわたしたちを、
「待て待て待て!」
おじさんが慌てたように引き留めた。
「偉そうに言って悪かった。本当に困っているのだ。だから、私に力を貸してくれ」
一転、低姿勢になったおじさんは、わたしたちに懇願した。言葉通り、本当に困っている様子に心を動かされ、わたしと追坂君は足を止めると、再度おじさんに向き合った。
「参考までに聞くけど、一体、何を探しているの?」
わたしが尋ねると、
「私が探しているのは、梅の枝だ。本物の梅の枝を探している。あちこちの主に聞いて回っているのだが、皆、どこに咲いているのか分からないと言うばかりでな……」
おじさんは腕を組んで難しい顔をした。
(なるほど。だからさっき、孟宗山の御神体の化身とお話をしていたのね)
「梅の花だったら、花屋に行けば売ってるんと違う?市販のものはあかんの?」
追坂君が簡単な調子で言うと、おじさんは、
「その手があったか!しかし、私の姿は人には見えぬから、花売りから花を買うことは出来ない。お前たちの力が必要だ」
と、わたしたちの顔を交互に見た。
「姿は人には見えない?」
おじさんの言葉の意味が分からず、追坂君が首を傾げる。すると、おじさんは、
「私は、山の御神体の化身なのでな。人は私の姿を見ることが出来ぬのだ」
と自ら正体を明かした。
「えっ!?」
追坂君が目を丸くする。
「どういうこと?」
「言葉通りの意味よ。このおじさんは、どこかの山の御神体が変化した者なのよ。それを証拠に、さっき追坂君は、このおじさんの姿が、現れたり消えたりしたように見えたでしょう?」
わたしは、なるべく分かりやすく追坂君に教える。
「もし本当にそうなら、なんで僕たちはおじさんの姿が見えるん?」
もっともな疑問を投げかけられたので、
「わたしはもともと、こういう不思議なものが見える体質なんだけど、追坂君は違うの?」
と逆に問い返すと、
「うーん、少しだけ霊感っぽいものはあるけど……心霊スポットとかに行くと、嫌な気配を感じたり、もやもやっとした何かが見えたりすることもあるし」
追坂君から、そんな答えが返って来た。
「なるほど。それならきっと、わたしと手をつなぐことによって、追坂君の霊感が一時的に強くなったんだわ。わたしがこうして手を離すと……」
と言いながら、追坂君の手を離し、
「おじさんの姿が見えなくなるでしょう?」
と尋ねると、追坂君は、
「ほんまや!見えへんわ!」
と目を丸くした。
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