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「ありがたい。ではふたりに頼もう」
おじさんはわたしたちの肩に触れると「頼りにしているぞ」とでも言うように、ぽんぽんと叩いた。そして、
「しかし、先ほどから気になっていたのだが、私をおじさんと呼ぶな。平井保昌(ひらいやすまさ)という名前がある」
腰に手を当てて、訂正をした。その名前を聞いて、追坂君が目を丸くする。
「平井保昌……ていうことは、おじ、保昌さんは、保昌山(ほうしょうやま)の主なんや!」
「追坂君知ってるの?」
有名人なのだろうか。わたしは聞いたことがない名前だったので、首を傾げて問い掛けると、
「平井保昌は、平安時代の貴族や。貴族なのに武士並みに武勇に長けてはったんやって。保昌山いうんは、平井保昌が、紫宸殿の梅の枝を折って盗んで来たっていう伝説に由来してるねん。だから別名『花盗人山』て言うんやで」
と教えてくれる。
「いかにも」
保昌さんは、こっくりと頷いた。
「故に、私が探しているのは梅の枝なのだ」
「じゃあ、これから一緒に花屋に行ってみよ。星乃さんもいいかな?」
追坂君に声を掛けられ、「いいわよ」と頷く。
「ああ、でも、実穂たちにはなんて言えばいいかしら」
追坂君とふたり、消えてしまったら、実穂と横田君は心配するに違いない。
「じゃあ、僕から連絡しておく」
追坂君がバッグからスマホを取り出し、軽い指使いでタップした。メッセージを送っているのだろう。
「これで良し!……って、もう既読になった。横田、早いな。……ん?」
すぐに横田君から返信が入ったようで、画面を見るなり、追坂君の頬が赤くなった。
「どうかしたの?」
少し動揺しているような彼の様子が気になって、一体横田君は何を書いて来たのだろうと、スマホを覗き込むと、追坂君は、
「あっ、何でもないで。横田が『こっちのことは気にしなくていいから、ふたりで回れば』って言って来ただけやし!」
慌てたように画面を隠し、そそくさとスマホをバッグにしまった。
「……?」
「行こう、星乃さん!確か花屋って百貨店にも入ってるやんな?」
先に立って歩き出した追坂君に、慌ててついて行く。その後を、保昌さんもついて来た。
(宵山を見に来たのに、何だか妙なことになっちゃったわ。でも、まあ、いいか)
わたしは陰陽師だ。こういう不思議な出来事には慣れている。やけに熱い追坂君の手のひらに右手をぎゅっと握られたまま、わたしは四条通に面する百貨店に向かった。
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