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3.梅の枝を探して
「わあ!相変わらず可愛いですね」
蟷螂山にやって来ると、御所車の上にいるかまきりの人形を見て、愛莉さんが歓声を上げた。
「可愛い……のか?結構リアルじゃないか?」
「金色の丸い目とか、可愛いじゃないですか」
無邪気に喜んでいる愛莉さんを見て、誉が笑っている。
蟷螂山は、南北朝時代、公卿の四条隆資(しじょうたかすけ)が天皇を守って敵に立ち向かった様子を、かまきりが鎌を掲げ、自分より強いものに立ち向かっている様子に引っ掛けて、四条家の御所車にかまきりの作り物を乗せて巡行したのが始まりらしい。
このかまきりは、山鉾中唯一、からくりになっていて動くので、なかなか人気の山だった。
ちなみに僕たちには、からくり関係なく、屋根の上にもう一匹いるかまきりの化身が、鎌を振り上げて動いているのが見える。
「『蟷螂の斧を以て隆車(りゅうしゃ)の轍(わだち)を禦(ふせ)がんと欲す』ですか。これはまた、面白い趣向ですこと」
「『文選』を知ってはるなんて、さすがですね」
口元を袖で隠し、面白そうに微笑んだ和泉式部に、声を掛ける。和泉式部は僕の感嘆の言葉に、ふふ、と目を細めた。
「宮様にお褒め頂けるなんて、光栄ですわ」
「…………」
(僕は宮様やないんやけどな……)
ここに来るまでに何度訂正しても信じてもらえなかったので、もはや「もういいか」という気分になっている。
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