ヒカリ

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 平地を進んでいる時はそんな話をしながら自転車を漕げたが、林道になるとほとんど話すことなくひたすらに坂道を上って行った。 「あーっ、着いたーっ。疲れたー。  てか、坂道きつっ」 「だいたい誰だろ、光生宮に行こうなんて言ったのは」 「カズミチが勝手に付いてきただけでしょ?」 「そりゃそうだけど、坂上ってる時にずっと「坂きっつ」とか「失敗したっ」とか愚痴溢してたのは誰かな」 「きついのはきついんだから仕方がないじゃんっ。そんなどうでもいいことにいちいち嫌味言ってくる必要はないんじゃないのっ」 「はいはい、2人とも。給食までには帰らないといけないんだから、早くお宮に行こう。授業中に来れるの3回しかないんだから、もし終わらなかったら休みの日に描きに来なくちゃいけなくなるよ」 「この池がまた不気味だよねぇ」 「この池の真ん中に岩があるよね。あれは生け贄になった子供を裸にしてあの岩に括りつけてたらしいんだよ」 「へぇー。でもなんかそれ、道徳の時に習った『少年の涙でできた池』ってやつみたいだね。あっ、もしかしてここの話なのかな」  ヒカリの漏らした言葉からカズミチの池の説明が始まった。それに対してユウジロウが少し感動するように言うと、「まぁ、それはさすがにないだろうね。この手の話は色んなところにあるからね」とカズミチは小馬鹿にしたような言い方で返した。そのやり取りにまたヒカリは文句を言っていたが、口論が長引く前にマミは2人をなだめた。 「ーーでもさぁ、何でここまで来てお宮を描かないで祠描くんだろうねぇ」  風で木々が揺れる。陰となる葉は一瞬得られる光から養分の素を集める。たまに聞こえる名も知らぬ鳥の声。階段の随分下にある池の水の音が聞こえてしまう程に、そこに住む自然は堂々と構えていた。 「描きやすいから・・じゃないかなぁ?  ぶっちゃけ、カズミチって絵が下手そうじゃん?」  カズミチとユウジロウは、踊り場というよりも中広場と言うべきところにある小さな祠を描いていた。石をただ積み重ねたかのような外枠。木板をただ組み合わせただけにしか見えない社。その中に薄く文字が書かれた札が入っているようだったが、取り出せないような造りになっていた。 「うん、間違いない。下手そう。マジで下手そう」 「ヒカリ、言い方に悪意を感じるよ」 「てかさぁ・・、マジで描きにくっ」 「あ、画用紙丸めてたからでしょ?カズミチの言うとおりになっちゃったね」 「ぶっちゃけ、言われたとき私も「確かに」って思った。  今度来るときセロハンテープ持ってこよ」 「ーー先生来たよー」  階段を上って来たのはカズミチ達と担任の先生。みかんの差し入れを持ってやって来た。 「あれ、ヒカリちゃん。紙が丸まってて描きにくそうだね」 「先生、僕が忠告したのに意地でも聞かなかったんですよ」 「うるさいっ、男のくせにいちいち細かいなぁ」 「ヒカリちゃん、そういうのに男も女もないよ。カズミチ君がせっかく教えてくれたんだから、そのときは聞こうね」
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