初体験

1/1
前へ
/61ページ
次へ

初体験

電話がなる。 警官たちは一斉に出る準備を始めている。 それを横目に見ながら、 「ーーなに?またあのアパートか?わかった」 対応している警官が驚いたような声で言う。 警官たちの間でも、あのアパートは呪われている、と噂されているようなそのアパートに千賀子は住んでしまっている事など、知るヨシもない。 101号室の中を私は山下さんに言われるままに、除きこんだ。 そこには見覚えのない男が、横たわっていた。彼は長身で短髪。まるでスポーツマンタイプの風貌だった。 そんな事をしていると、、。 ピーポーピーポーピーポーピーポー。 パトカーなのか?救急車なのか?よく分からない音が聞こえてきた。 だんだん、、 だんだんと近づいてくる。 パトカーだ。 「どいてどいて!!」 警察官が野次馬をどけている。 他の数人の警官たちで黄色いテープを張って、進入禁止にしていた。 「あなた方は?」 警察手帳を片手に開きながら、千賀子たちに歩み寄る。 「ーーあの、、私が発見しました」 山下さんが小さな声で言う。 少し怯えながら。 「では?」 そう言って千賀子の方を見つめる。 おそらく千賀子がなぜここにいるのか!?それが知りたいんだろう。 正直言って、それは私が知りたい。 何が何だか分からぬまま、ここに連れてこられて、この騒ぎだ。 この状況はとてもやばい。 なぜなら今は、私が一番犯人に近い状況ではないのか? そんな思いをめぐらせながら、口ごもっていると、山下さんが小さな声で言った。 「私が、、私が連れてきたんです」 「連れてきた?なぜ?」 「彼のその姿を見つけてしまって、どーしていいのか?わからなくなって、一人じゃいられなかったんです。それで、、」 山下さんは事実を語った。 事故物件のこのアパートに私が住み始めて、わずか二日目の事だった。 人の死という、あり得ない出来事を目撃してしまったのはーー。 ーーこのアパートの住人は死ぬ。 ーー生きてはいられない。 私の中に漠然とした不安が渦巻いていくのを感じた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加