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初体験
電話がなる。
警官たちは一斉に出る準備を始めている。
それを横目に見ながら、
「ーーなに?またあのアパートか?わかった」
対応している警官が驚いたような声で言う。
警官たちの間でも、あのアパートは呪われている、と噂されているようなそのアパートに千賀子は住んでしまっている事など、知るヨシもない。
101号室の中を私は山下さんに言われるままに、除きこんだ。
そこには見覚えのない男が、横たわっていた。彼は長身で短髪。まるでスポーツマンタイプの風貌だった。
そんな事をしていると、、。
ピーポーピーポーピーポーピーポー。
パトカーなのか?救急車なのか?よく分からない音が聞こえてきた。
だんだん、、
だんだんと近づいてくる。
パトカーだ。
「どいてどいて!!」
警察官が野次馬をどけている。
他の数人の警官たちで黄色いテープを張って、進入禁止にしていた。
「あなた方は?」
警察手帳を片手に開きながら、千賀子たちに歩み寄る。
「ーーあの、、私が発見しました」
山下さんが小さな声で言う。
少し怯えながら。
「では?」
そう言って千賀子の方を見つめる。
おそらく千賀子がなぜここにいるのか!?それが知りたいんだろう。
正直言って、それは私が知りたい。
何が何だか分からぬまま、ここに連れてこられて、この騒ぎだ。
この状況はとてもやばい。
なぜなら今は、私が一番犯人に近い状況ではないのか?
そんな思いをめぐらせながら、口ごもっていると、山下さんが小さな声で言った。
「私が、、私が連れてきたんです」
「連れてきた?なぜ?」
「彼のその姿を見つけてしまって、どーしていいのか?わからなくなって、一人じゃいられなかったんです。それで、、」
山下さんは事実を語った。
事故物件のこのアパートに私が住み始めて、わずか二日目の事だった。
人の死という、あり得ない出来事を目撃してしまったのはーー。
ーーこのアパートの住人は死ぬ。
ーー生きてはいられない。
私の中に漠然とした不安が渦巻いていくのを感じた。
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