引き寄せる者

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引き寄せる者

あの事件から、わずか1日が過ぎたが、警察官たちはバタバタと動き回っている。 何をしているのか?は分からない。 101号室の田中さんは、まだ30代から40代と言ったところの年齢層に見えた。 ーーまた、か。 警官の一人がぼやくように言った。 山下さんも「また」とため息をこぼした。 私は詳しく聞いてみる事にした。このアパートでは怪死事件だったり、殺人事件だったり、自殺だったりが繰り返されてきているのだと言う。 近隣の住民からは、死を招くアパートだと囁かれ、何度もこのアパートを取り壊そうとしてきたらしいが、不思議とこのアパートに住む住人は絶えないのだと言う。 アパートに住む住人がいなくなれば、取り壊しも簡単になるだろう。 しかし、そう上手くはいかないようだ。 死を招くアパート、、か。 実際に人の死を見たにも関わらず、呑気にも自分には関係ないと思う千賀子がいた。 田中さんが亡くなって、一週間もすると警察官の数も少なくなってくる。 彼らは事件なのか?事故なのか? 近隣の住民たちに報告すらしてくれない。 そうして田中さんの死は世間から忘れ去られていく。その最後を見てしまった者たちには、心に深い影を残してーー。 幸いな事に、あまり馴染みのなかった人だけに、一緒に過ごしたという実感がない事がせめてもの救いだった。 田中さんが、死を迎えてからそろそろ二週間が経とうとしているその日。 ポストに手紙が届いていた。このアパートでだけ、交わされている約束事を果たす為にーー。 「初めまして。今日から101号室に住むことになりました藤木です。どーぞよろしくお願いします」 そう書かれていた。 101号室。 あの部屋は田中さんが死んだ部屋ーー。 そしてもう藤木と言う人が住んでいるのだと言う。 人の事は言えないが、どーして事故物件などというモノに住んでしまうのか、、? 私はそこに興味を覚えた。 あの部屋に、一度寄ってみようと思う。ただの興味心ではあるが、今度住む藤木さんという人物を見る為にーー。 もっとも会ってくれる保証はない。 田中さんのように、引きこもりかも知れないのだから。
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