22人が本棚に入れています
本棚に追加
「だったら、俺もついていく」
「だめだよ。だって、学校が」
「学校なんて辞めて働く。薔子から、絶対に離れない。あんたから、なに言われても、俺の決意は変わらない」
君の体は、重くて、あたたかくて。
声を震わせて告げてくる君が、なによりも愛おしい。
私はつま先立ちになって、君の後頭部を撫でた。少し長く伸びた、やわらかな髪に触れると、泣きたいくらいに胸が苦しくなる。
「ヨシヨシって。それさ、ますます子ども扱いされてる気がする」
「違うよ。私も、やっぱり大地と別れるなんて無理だと思った」
だって、こんなにも好きだ。
好きで、大好きで、嘘がつけないくらい、愛おしくて。
「だからね、高校卒業したら、追いかけてきてよ」
「薔子……」
「今度こそ、逃げない。待ってる。新しい住所は教えるから」
今夜、黙って出発するつもりだった。行き先も告げずに、消えようと思った。
でも、そんなことしたら、一生後悔する。
取り返しのつかない傷を、君に刻みつけてしまう。
「駄目」
吐息まじりに言われて、息が止まる。
「俺、あんたの引っ越し、見届けるから。ちゃんと、間違った住所言われて、誤魔化されないか、自分の目で確かめる。じゃないと、行かせない」
君の指が、私の手をやんわり包みこむ。その感触一つで、昨晩の行為をなぞりそうになる。
ごめんなさい。
心の中で謝る。私は、君の先生にはなれなかった。男と女でしか、いられなかった。間違いだとわかっていても、君を好きすぎて、正すことができなかった。
「必ず、夏休みには会いに行く」
「うん。待ってる」
あいしてる。
その言葉は、二人とも同じタイミング。
照れ笑いで視線を絡ませる。
自然に、二人の唇が重なりあっていた。
最初のコメントを投稿しよう!