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その晩、君が訪ねてきたことには驚いた。
明日の夜になれば、私はいなくなる。この部屋で暮らす最後の夜を、一人、感傷に浸って過ごすはずだった私は、予告なく現れた君を目にして、言葉を失った。
「入れて」
お願いではなく、当然のように押し入ってくる君を、無言で招き入れた。
また背が伸びたね。そう言おうとして、なぜか言葉を飲みこんだ。
君と出会ってから、言いかけてやめることが増えた。私が臆病になった証拠かもしれない。
「大掃除、したんだ」
所狭しと床に積み上がっていた紙束はすっかり片付いている。ダンボールに詰めることはしなかった。不要なものは捨てた。必要なものなんて、ほんの少ししかないんだと思った。些細な家具と家電、衣類と日用品、それに簡素なパイプベッド。
「う、ん。いろいろ、きれいにしたくて」
「不精なあんたの割には、思い切ったんだな」
「そう、かな」
でも、髪は切れなかったんだ。君が好きだと言って、指を絡めて梳いてくれた。未練がましいと分かっていても、思いきることができなかった。
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