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「なあ、なんでだよ」
「なあに?」
「なんで、逃げんだよ」
「逃げてなんか、ないって」
背を向けて、キッチンへ逃げこもうとしたところを、うしろから抱きすくめられた。
「薔子。俺のこと、嫌いになった?」
「そんなこと、」
「だって、俺を避けてるから」
「避けてなんて、」
「俺、頼りないし、子どもっぽいし、カッコ悪いところ、いままでいっぱい見られてるけど、でも、薔子のこと本気なんだよ」
「うん、ありがとう」
「違うだろう」
「うん。私も、大地のこと、本気だよ」
「それ、信じていいんだよな?」
「大地がいないと、息ができないんだ」
名前を呼ばれて振り向く。
息がかかるほど近くに、君の顔がある。鼻先がぶつかると思ったら、唇が重なっていた。
君の唇が、私の唇を挟んで、息ごと貪っていく。
このまま、君に食べられたらいいのに。
「んっ……」
全力疾走した時よりも呼吸が荒い。
君の腕が伸びて、きつく抱きしめられる。体の触れあったところから熱くなっていく。
「薔子が、欲しい」
君に求められた私が、拒めるはずもなくて。
YESの代わりにもう一度、私からキスをした。
安物のパイプベッドが軋む音を聞くと、言いようのない羞恥心がこみあげてくる。
こんなに好きな人だから。
自分からは離れられない。
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