タブー

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「おい! なにやってんだ、バカ!」  すごい剣幕に驚いて振り返れば、長袖の白シャツ一枚で猛ダッシュしてくる君が、見えた。 「だいち……どうして、こんなところに?」 「どうしては、こっちのセリフだ。バカ薔子!」  私に向かって突進してくる君から、逃げることもできない。受けとめることもできない。  橋の上で馬鹿みたいに立ちつくしているところを、タックルされた。腰と肩をつかまれ、私の顔は君の鎖骨に押しつけられる。  走ってきたばかりの君の心臓は、すごい勢いで脈打っていて、その当たり前のことに泣きそうになる。 「目が覚めたら、薔子、いなくなってて、すげえ怖かった……マジで」 「ちょっと散歩してただけだって。朝、早くに起きちゃったから」 「嘘だ!」  君は吼えるように否定して、骨が折れるくら強く、私を抱きしめる。 「苦しいよ」 「でも! 薔子、いなくなる気なんだろ? どうしてだよ。俺が重かったから、嫌いになった? 俺がガキくさいから?」 「違うよ」 「嘘つくなよ!」 「嫌いなわけ、ないじゃない。でも、私が君の負担になるわけにはいかない、だから」 「俺、学校辞める。いますぐ」 「大地!」  君の腕を振りほどこうとして、体をよじったけど無駄だった。力強く逞しい男の体に抱きすくめられて、身動きが取れない。  君は、いつのまにか、こんなにも成長していたのだと知って、泣きたくなる。  何度も抱き合ったのに、まるでわかっていなかった。君は、私が嫌がることは、なに一つしなかったのだ、と。 「学校なんて、俺が辞めればいい。あんたが辞めることない」 「それじゃ、意味がないのに」 「どういうこと?」  しまった、と口を押さえた時にはもう遅い。出てしまった言葉は取り消せない。  君の視線が痛い。  朝日はいつしか雲に隠れていて、川面からは薄ら寒い風が流れてくる。  橋の上にいる私たちを見ている者はいない。
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