タブー

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「俺に隠しごとするなよ」 「隠してなんて」  追求されるのが怖くて、さりげなく視線をそらす。けれど、君の手が伸びて顎をつかまれてしまえば、それ以上、抵抗することもできなかった。 「目が泳いでる」 「ウソ」 「なあ、なに隠してんだよ。俺じゃ頼りない? 俺が信じられない?」 「そういうわけじゃ」  君に知られるわけにはいかない。全部が、無駄になってしまう。 「俺とあんたのこと、誰にバレたんだ?」 「大地、どうして……!」 「言えよ。うちのクラスの奴? それとも、教頭か?」  君は本当に勘がよくて。嬉しく思う反面、気づかないでいて欲しいことも、すぐに察してしまう。  体から、砂時計の砂が滴り落ちるように力が抜けていく。  もう、私一人では立っていることさえできなくて。君に促されるまま、その男の名を口にしていた。 「渡部、先生。学年主任の。私の部屋から、朝、大地が出て行くのを見たって」  アパートの二階は、一階よりも通りから丸見えなのだ。玄関のドアを開けて、朝帰りの大地を見送ったことを後悔したが、手遅れだった。  二人の子持ちの学年主任に、大地の話を持ち出された時は、冗談ではなく心臓が止まるかと思った。  そのうえ、黙っていて欲しかったら、どうすればいいかわかるだろう? と下卑た笑みを見せられた日には。  すべて、私が蒔いた、災いの種。 「マジかよ。おっさん、余計なことを。で、責任取ってあんたに辞めろって言ったわけ?」 「ちがう」  私が否定すると、見る見るうちに君の顔が青くなる。  うまく誤魔化せなかった自分を呪っても間に合わない。 「え、じゃあ……ウソ、もしかして渡部の奴、あんたに、まさか」 「別れよう。大地」  ずっと、心の中であたためていた言葉を、ようやく言えた。  
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