秋の空。

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「へぇ、こうなってるんだ。明るい時も又見てみたいな」 「ちゃんと足元見て歩けよ、転ぶぞ」  と、時雨が警告した次の瞬間であった。 「おわっ……?!」  案の定、躓いた様子。咄嗟に手を前へ出して、何とか身を支えたが、乱れた寢衣から覗いた足と付いた掌は土で汚れ、みっともないこと。何故こうも期待を裏切らない奴なのかと時雨は呆れつつ、錦を起こす。 「最早才能だな、此れは……仕方あるまい。風呂に入って着替えて、もう寝ろ。いいな、彷徨くなよ」  時雨は、此れにて終了と錦を中へと促しながら言う。追い払う様な手振り迄見せて。 「くそぅ……」  折角渋る時雨を連れ出せたのに、己の間抜けな失敗で即刻打ち切られてしまった。錦は悔しげに、引き下がるより無く。新たに着替えと風呂の準備を手配してくれた時雨だが、其れを手渡し、必ず寝ろと更に念押しされてしまった。  其れでも、広い露天風呂を再び堪能出来た錦は其れなりに納得出来た。少し擦りむいたのか、膝がしみるが。しかし、眠くは無いのだ。又あの空間に戻るのも、気が滅入る。ふと、錦は一刀の執務室へ行ってみるかと。此処は御所では無いのだし、従者も少ない。少し覗きに行く位ならばと。普段、此の様な事をしないのだから、驚くかも知れない。錦は悪戯をする様な感覚に、楽しくなってきた。込み上げる思いを抑えつつ。 「戻れって言われたら、直ぐに諦めれば良いんだ」
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