秋の空。

15/19
113人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 日が落ちる迄には、別邸へと戻って来た二人。錦の一番の目的、一刀と眺める紅葉。此れが叶い、錦は上機嫌であった。夕餉は共に頂けたが、一刀は片さねばならない執務があるとの事で別室へ。先に休む様にも告げられ、やはり一刀は忙しいのだと寂しくもあった。しかし、共に紅葉を眺めに連れ出してくれたのだからと、労い別れる事に。  其れでも、楽しみを見付けた錦。湯浴みへ向かうと、何と其処は広い露天風呂となっていたのだ。西にいた頃より御所を出る事が無かったので、初めて見る露天風呂に錦は少々はしゃいでしまった程。だが、問題は此の後だった。一刀はやはり遅いので、慣れない別邸の広い部屋に一人ぼっち。此処には、薊と小夜も居ない。繊細な錦は、中々寝付けなかった。とうとう体を起こし、羽織りを掴むと部屋を出てしまい。其のまま、警護に控える時雨の元へ。こんな夜に、と眉を潜める時雨へ錦は愛想笑いで誤魔化す。 「早く寝ろ」  即刻そう窘められるが、錦は時雨より視線を反らし。 「そうなんだけどさ、初めての処だし……眠れなくて……」 「幼子か、お前は」  呆れた様な溜め息に、錦は拗ねる表情に。 「仕方無いだろう……庭を歩きたいんだ、付いてきてよ」  我が儘を、と又も出る溜め息。しかし、確かに錦は幼い頃より繊細だ。時雨にしてみれば、よく知る処でもあるので。 「肌寒いし、少ししたら戻るぞ」  時雨は甘い。そんな時雨が忠告した様に、秋の庭は少々肌寒かった。薄明かりの中ではあるが、御所の庭とは又違う雰囲気に好奇心が沸き、足を速める錦。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!