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高みを目指して
手に槍を携え、それぞれの愛馬に跨った若者たちが、郊外に広がる森の奥へ分け入っていく。
初夏の日差しは目が眩むほど明るく、少し体を動かすだけで汗ばむほどだが、森の中は心地よい風が吹き抜けている。
「王子。ずいぶんと呑気じゃないか。こんな時期に狩りに繰り出すなんて」
「こんな時くらい、王子はやめてくれと言ったはずだ。おまえに言われると、かえって馬鹿にされている気がするぞ、ヘファイスティオン」
「そいつは気のせいだ、アレクサンドロス。とっとと鹿でも猪でもしとめて、うまい葡萄酒にありつきたいもんだな」
一行の先頭を行くのは、マケドニア王フィリッポス二世を父に持つ、十八歳の誕生日を間近に控えたアレクサンドロス。
その隣に寄り添うがごとく馬を進めているのは、王子と同い年の親友、ヘファイスティオン。
二人の後にはリュシマコスと、私プトレマイオスが続く。
アレクサンドロスの周囲には、多くの人が集まる。親族、縁戚、従者、乳兄弟、友人たち。なかでも大事な局面にさしかかると、ミエザの学園で共にアリストテレスの教えを受けた我々が呼び集められる。王子から寄せられている信頼の重みを感じることが、私にとってはなにより誇らしいことだった。
王宮も街中も、それぞれの屋敷でも、家人や下男下女の耳目がある。秘密の話をするのに、狩猟はうってつけだった。
マケドニアの森では良質な木材が育ち、平原では良馬が育つ。貴族出身であれば、幼い頃から乗馬を教えられる。狩猟は軍事訓練も兼ねる。北方遊牧民の侵入に悩まされてきたマケドニアの民には、武勇と剛毅、名誉を重んじる気風が備わっていた。
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