愛、深紅

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「……ていう伝説があって、その時に流れ出た血でがこの川は紅く見せるんだってさ」 康司は自慢げに告げる。 「本当に紅く見えるわね。 夕陽のせいもあるんだろうけど……」 真美は欄干から身を乗り出し、谷底を覗き込んだ。 康司はその背中に回って肩に手を乗せ、 「その伝説には続きがあって……」 真美は振り返り、 「なになに?」 興味津々で先を促した。 「二人の力がこの場所に宿って、この橋の上で抱き合った男女は永遠に愛し合えるんだそうだ」 そう言って康司は真美を抱き締める。 真美はそのまま体を預け、耳元で囁く。 「私が知ってる話とは違うわね」 「何?どういう事?」 「伝説になっている男は、谷底に落ちている間に女の血を吸うのを止め、自分の血を女へと流し込んだの」 「それで?」 康司はさらに優しく真美を包み込み問う。 「男は死に、女だけが生き残った」 真美の唇は康司の首元へ。 「まだこの辺りウロウロしてたりして」 康司は笑ったが、 「吸血鬼はね、歳を取らないの」 真美は低い声で告げた後、鋭い牙を血管へと突き刺した。 「うっ……」 康司の意識は一気に遠のいていく。 何が起きているのか必死に理解しようとする。 「伝説の女が真美……」 真美は果たして血を吸っているのか、それとも流し込んでいるのか…… 答えの見つからないまま陽ば沈み、紅く染まっていた川は闇へと変わった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加