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「……ていう伝説があって、その時に流れ出た血でがこの川は紅く見せるんだってさ」
康司は自慢げに告げる。
「本当に紅く見えるわね。
夕陽のせいもあるんだろうけど……」
真美は欄干から身を乗り出し、谷底を覗き込んだ。
康司はその背中に回って肩に手を乗せ、
「その伝説には続きがあって……」
真美は振り返り、
「なになに?」
興味津々で先を促した。
「二人の力がこの場所に宿って、この橋の上で抱き合った男女は永遠に愛し合えるんだそうだ」
そう言って康司は真美を抱き締める。
真美はそのまま体を預け、耳元で囁く。
「私が知ってる話とは違うわね」
「何?どういう事?」
「伝説になっている男は、谷底に落ちている間に女の血を吸うのを止め、自分の血を女へと流し込んだの」
「それで?」
康司はさらに優しく真美を包み込み問う。
「男は死に、女だけが生き残った」
真美の唇は康司の首元へ。
「まだこの辺りウロウロしてたりして」
康司は笑ったが、
「吸血鬼はね、歳を取らないの」
真美は低い声で告げた後、鋭い牙を血管へと突き刺した。
「うっ……」
康司の意識は一気に遠のいていく。
何が起きているのか必死に理解しようとする。
「伝説の女が真美……」
真美は果たして血を吸っているのか、それとも流し込んでいるのか……
答えの見つからないまま陽ば沈み、紅く染まっていた川は闇へと変わった。
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