恋したいから そばにいて

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  「おれの彼氏になってほしい」  言われたその瞬間、玲が何を言っているのかが分からず、動きを止めた。  …いつもの、ここ何十年と見慣れた風景の中、夕飯後のテーブルを拭いていた丈太郎は、ダイニングキッチンと地続きのリビングでテレビを見ていた玲の方を見ずに、 「ごめーん、よく聞こえなかった、もっかい言ってー」  と、無邪気に問い返した。 「…おれの」  ソファーから立ち上がり、丈太郎の方へ向き直った玲は秀麗な顔から表情を無くすと、真剣な口調で同じ言葉を繰り返した。 「おれの、彼氏になってほしい」 「…」  四人がけのイスとセットのテーブルを拭いていた丈太郎の手が、ぴたり、と止まる。  ──今度こそ、間違いなく。  丈太郎は玲の声を聞き、放たれた言葉を脳に伝達できたようだ。 「…は?」  高い上背を屈め、テーブルの上を拭いていた体勢を直した丈太郎は、リビングに立ち尽くしている玲に困惑顔を向ける。  すると、あらかじめ丈太郎が取る態度を予測していた玲は固く握りしめていた拳を震わせると、真っ直ぐに自分を見る視線から逃げるように目を逸らした。  それでも『零した水は盆に戻らず』だと言わんばかりに再び口を開くと、 「だから、彼氏に」 「なんの冗談?」  と直ぐさま言い返されて一瞬声に詰まるも、 「かれ、し」  と、息も切れ切れ言葉にするが、 「レイにぃ」  と名前を呼んだ丈太郎がついたため息を拾い聞き、ついに言い負けたように口を閉ざした。  明るいだけが取り柄だと両親にも言われている丈太郎の、ワントーン下がった声音で名前を呼ばれただけなのに、心が萎縮してしまった玲は肉づきの薄い唇を軽く噛み、黙ってしまう。 '
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