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「レイ、今日の夕飯どうするの?」
水族館を出て帰りのバスに揺られるうちに、空は夕闇色に染まり始めていた。
バスから電車に乗り換え、間もなく二人が暮らす町内、というところで丈太郎が話しかけると、スマホの画面を見ていた玲が顔を上げ、口を開いた。
「今日はもう家に帰るよ。 母さんが夕飯作って待ってるからって」
「あ、幸子さん、今日早く仕事終わったんだ」
「日曜日だからね。 本当は休日なのに、子供が熱だして出勤できない人がいるからって、無理して出て…」
体壊さなければいいけど、と小さく呟く玲を見て、丈太郎は笑顔を零した。
「その言葉、そのまんまレイに返すよ」
「え?」
「恩返ししたいっていう気持ちもあって、お母さんを助けるためにも頑張って仕事してるのは知ってるけど、ちょっと頑張りすぎだと思うよ、レイも」
休日出勤をした母親を慮る玲だが、そんな玲も多分に漏れず、心配されなければならない側の人間だった。
一流企業に勤めている、といえば聞こえはいいが、年末や年度変わりの締め月などになると深夜まで仕事をすることが当たり前となり、決められた土日の休みを返上して仕事をしていることなど、長い付き合いがある仲なのだ、知らぬはずのない事実でもあった。
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