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「おれは…ゲイなんだって自覚が、割りと早い時期からあった。 だから、そうだって母さんに知られたら、まともな生活なんかできなくなると思って隠してたんだ。…でもそれも、どうでもいい噂話のせいで、知られてしまった…」
そう淋しげに言った玲だったが、息継ぐ間に気持ちを切り替えたと言わんばかりに笑みを零すと、明るい口調で言葉を継いだ。
「でも、それでも母さんは、そんな噂をたてられるような息子のおれを…絶対、否定しようとしなかった」
そればかりか。
そんな性癖がどうした、と軽く言い放ち、
『疚しいとか、疑われるようなことがないのなら、悲しそうな顔をして俯かなくていいんじゃない? …胸を張って、学校に行きなさい』
と縮こまる玲の背中を押し、その上で周囲からかけられる言葉を笑い飛ばしてくれた、芯の強さを見せた、母親。
…目に見えない言葉を、信じるのではなく。
いつ草葉の露と消えてしまっても仕方ないほど弱小な自分の言葉を信じ、全力で励ましてくれた…母親。
そんな母親を…玲は心の底から尊敬し、愛していた。
だからこそ、強くなりたい、強くありたいと思った。
強く、そして一日でも早く大人になって、華奢で非力な二の腕で自分の体と心を守り続けてくれた母親のことを…
守れるようになりたいと、思って──生きてきた。
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