それぞれの道

9/15
前へ
/68ページ
次へ
 握っていたスコップが淡い光に包まれた。光は真っ直ぐ天へと登って行き、広がって空中で文字となった。記されていたのは、いにしえの言葉だった。これが奇跡の呪文だろうか。  一か八か。セルマは銀のスコップを高く振りかざして、その言葉を詠み上げた。  In pace requiescat 《イン パセ レクイエスカット》  意味は「安らかに眠れ」だ。多分。  セルマが唱え終わると、空の文字は風船のように大きく膨らむと、パンと破裂して白い光の粒となって、墓地に降り注いだ。  光の粒に打たれた緑の騎士たちの動きがピタリと止まった。騎士だけではない。墓から這いずり出て来た死体たちも動きを止めた。  やがて、騎士たちはぞろぞろと、もと居た礼拝堂の地下に戻って行った。屍たちも自分たちの墓に帰り出した。彼らはついでに、その辺の敵兵も体半分地中に引きずり込んで、身動きを取れなくしてくれたので、セルマたちにとっては、非常に助かった。 「まったく。」  セルマはつぶやいた。 「この呪文、普段も使えたらいいのに。そうすれば……」  毎日の仕事が、もっと楽なのに。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加