それぞれの道

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それぞれの道

「ランラン、行こう。」  セルマはランドルフに声をかけた。ランドルフは先ほどからずっと、うなだれたままだった。  セルマは、ランドルフの手を引っ張ると、礼拝堂の中に駆け込んだ。扉を閉め、閂を下ろし、それでも不十分だと思ったので、祈祷台を持って来ることにした。 「ランラン、運ぶの手伝って。」  ランドルフは黙って従った。ランラン、と呼んで、文句の一つも返って来ないところを見ると、よほど意気消沈(いきしょうちん)しているようだ。  気休めに足の長い燭台(しょくだい)で窓もふさいでおいたが、何とも心許(こころもと)ない。これでは完全に袋のネズミだ。立てこもるのは、良い判断ではないのは分かっている。しかし、今は他に考えつかなかった。 「それ、どうした?ランドルフ・ランダル・ランバート・ラングレイブよ。そなたは、もうお仕舞いじゃ。はよう、出てこぬか。」  礼拝堂の壁の向こうから、王妃の声が聞こえた。 「父上……」  ランドルフは弱々しくつぶやいた。 「よいことを教えてつかわそう。」  王妃が言った。 「国王陛下は、昨日お隠れ遊ばした。まだ公表はしておらぬがのう。」 「何と言うことだ……」  ランドルフはがっくりと肩を落とした。 「ランラン……」  セルマはかける言葉が見つからなかった。
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