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目の前に、ドッペルゲンガーがいる。
それだけでも珍しいことなのだが、更に奇妙なことがひとつ。
そいつは俺の姿をしてはいない。
要するに、他人のドッペルに出会ってしまったのだ。
こいつが偽物だと断定できる理由がある。さっき本物と出会って、おしゃべりして、別れてきたばかりなのだ。彼女に双子の妹か姉かがいるなんて聞いたことはない。なにより少し、僅かに、微量に、しかし致命的に雰囲気が違う。
俺はあいつの親友なのでその違いを見分けることができるのだ。
だからこそ、なんとかしなくてはいけない。
ドッペルに出会うと本物は死んでしまうらしい。
どうしたものかな。
とりあえず俺の家に連れて行った。性格も本物そっくりなのでほいほい着いてきた。母さんは彼女がドッペルであることを最後まで見抜けなかった。にぶい人だ。
部屋で二人向かい合う。俺は対策を考える。
ひとつのアイデアが浮かんだ。
こいつを本物とは似ても似つかない奴に変えてしまえば、もはやドッペルゲンガーとは言えなくなるのではないだろうか。
それには何が必要だ?
何を足せば、何を引けば、彼女は彼女でなくなるんだろう。
いつも自慢げに揺らしている長い髪をばっさり切ってしまえばいいのだろうか。
豚の血を輸血すればいいのだろうか。
無理やり処女を奪ってしまえばいいのだろうか。
殺せばいいのだろうか。
そうすれば。
そうすれば、彼女は彼女でなくなるのか?
俺にはどうしてもそうは思えない。
俺はいつの間にか涙を流していた。
もうひとつのアイデアが浮かんだ。
全部、見なかったことにしよう。
夜になって寝た。
次の日、ひとりになった彼女と出会った。
本物かもしれない。ドッペルかもしれない。
わからない。
笑っている。彼女は笑っている。
笑っている。昨日と同じやり方で。
目の前にいるのは、どっちの彼女なのだろう。
そんなこと、考える必要があるのだろうか?
俺にはどうしてもそうは思えない。
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