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晃の手紙1
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ばあちゃんへ
毎日の雪にうんざりしていますが、一面の白に反射された朝の光は美しいです。春には忘れ、冬になると沸き起こる驚きです。
……時候の挨拶って、こんなのでいいの?
ばあちゃんはいきなり本題を書いていたけど(しかも『僕を心配している』から始めるから、びっくりしたよ)
やっぱりばあちゃんは年上だから、孫の僕は挨拶から正さないとマズいかなと季語辞典を母の書斎から引っ張りだしましたが、呪文のような季語ばかりですぐに放り投げました。
『桜逢瀬』
ばあちゃんに言われた通り、造ってみました。すり潰すのに使う道具って、料理の道具でいいの? 家のは使ってないです。母に怒られる。ちいさなすりこぎとすり鉢を買って使いました。
標本とは言え、蝶をすり潰すのはちょっと心苦しいね。
ばあちゃん。僕が泊まりに行ったときに夜中にひとりで部屋で閉じこもることがあったけど、こういうことをしていたんだね。
「魔法使いになりたい。たくさん本を読めば、いつか魔法が使えるかもしれない」
僕はちいさな頃に、ばあちゃんによく話していましたよね。
ばあちゃんはあのことをいまだに覚えていて、ふざけて……この言い方はひどいよね、ごめん、僕を楽しませようと面白い手紙を送ってきたんじゃないかと思いました。
ばあちゃん。
疑って、ごめんなさい。
僕は『桜逢瀬』で旅をすることができました。
朝になっても旅は鮮明に覚えている。早くばあちゃんに伝えたくて、朝ごはんも食べずに手紙を書いています。
覚えているといっても、すぐに言葉にしなくては忘れてしまうんじゃないか。そう思いながらペンを走らせています。
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