英雄の娘

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英雄の娘

1年前の4月、この日イブキ少佐が率いる部隊はイングラムから南東にある地域に派遣されていた。この時イングラム国率いる連合軍はヨーロピア大陸全土を実効支配しようと企むドルイ帝国との前線地域へ派遣されていた。 約半年の激戦が繰り広げられ地平線の彼方まで広がる広大な牧草地は激戦を物語るかのように爆撃などの跡でクレーターの様にえぐれていた。 イブキ少佐16歳、父であるルイス将軍は先の大戦で母国を勝利に導いた英雄として扱われていた。しかし昨年末、ドルイ帝国との激戦により戦死してしまった。 幼い頃から父に憧れ活発な性格だったイブキも軍に入隊し、父親譲りの行動力と戦術が評価され若干16歳にして軍の少佐として部隊を任されていた。 この日父親の敵を取るため自ら、前線に赴くことを志願して部隊を引き連れ戦場へ向かった。 母国イングラムの南部で繰り広げられている 「南部戦線」 にイブキが率いる陸軍第117部隊が派兵され、戦火の渦中にある同盟国の隣国フランシア共和国南部に位置する前線付近に野営キャンプ場を設営して兵士たちが一時の休息を楽しんでいた。 その日の晩、イブキが壇上に立ち兵士たちを激励した。 「みんな聞いてほしい。この戦いが我々イングラム、いやヨーロピア大陸全体の命運がかかっている戦いとなる。だから共に手を取り合い、共に戦い明日への未来をつかみ取るんだ」 イブキは不安げな表情を浮かべている部下たちにエールを送るつもりで自らが指導力を発揮することで士気を高めていった。 兵士たちからの歓声と拍手に包まれたイブキは、男性兵士の憧れの的でもあった。 「イブキ少佐、我々は最後まで少佐について行きます」 「ありがとう。私は必ず勝利をつかみ取り、君たちを故郷で待つ家族の元へ無事送り届けられるようにしてみせる」 イブキの勇敢な姿に兵士たちのモチベーションが一気に上がりキャンプ場は歓声と熱気に包まれた。 しかし 「敵襲だ! 」 見張り役の兵士の一言でイブキ達は一気に緊迫した空気に包まれた。するとある兵士が 「どういうことだ。ドルイ帝国の奴らが攻めてくる情報なんてなかったぞ」 「もしかしたら俺たちの中に奴らのスパイがいたのかもしれない」 突然の奇襲に慌てふためく兵士たち。 「怯むな、すぐに戦闘準備を整えろ! ドルイ帝国の奴らは私が撃ち滅ぼす」 イブキは大声で命令を下し兵士たちは急いで準備を整えようとしたその時、周りを戦車部隊が囲み一斉砲撃を開始した。野営キャンプ場は一気に火の海と化してしまった。 ドルイ帝国の戦車部隊の砲撃により大量の死傷者を出してしまいイブキ達は一気に壊滅状態に陥ってしまったが 「怯むな、栄光なるイングラム紳士たちよ私に続け! 」 イブキは自動小銃を手に取り敵部隊へ突入していくと兵士たちもイブキの後に続き 「少佐に続け! 」 「ここで俺たちが食い止めなければこの先にある街が襲われて一般人に犠牲者が出るぞ」 兵士たちは敵の一斉砲撃の中を突き進んでいくが次々と敵の銃弾に倒れて行った。イブキは1人で前衛の敵兵を何人も銃で倒していった。爆音と火花が飛び散る中ある若い兵士がイブキ少佐の元へ行き 「少佐、このままではやられてしまいます。撤退しましょう」 「嫌だ、撤退など恥さらしだ。死んでいった部下たちに申し訳が立たない」 「でも少佐が死んでしまったら我が部隊にとって大きな損失が生じます」 イブキは部下の制止を振り切り前進しようとした次の瞬間、乾いた銃声が辺りにこだました。 銃弾はイブキの胸を撃ち抜き傷口からはおびただしい量の出血をしてその場で倒れてしまった。 「我らドルイ帝国に栄光あれ…… 」 イブキを撃った瀕死の敵兵はその後すぐにこと切れてしまった。 「イブキ少佐! 」 若い兵士はすぐにイブキの傷口を止血するが出血が激しいため兵士の手は血で赤く染まった。 「少佐! しっかりしてください」 兵士は、イブキを背中に担ぎ敵の銃弾が降りしきる中、別の駐留基地へと向かった 薄暗い森の中をひたすら歩き、兵士が歩いた道には所々血痕が落ちていった。 「少佐、何とか抜け出せました。僕は母と2人暮らしなんです。父を戦争で亡くし僕が戦争を終わらせるため兵士に志願しました」 「でも、その夢は叶いそうにありません。もし僕が死んだら母に僕のペンダントを渡してください」 すると兵士はその場に倒れこんでしまった。彼も逃げる際に敵の銃弾を食らいおびただしい量の出血をしていた。彼は、最後に力を振り絞りイブキのポケットにペンダントを入れた。 その後すぐに通りかかった味方兵に発見され野戦病院へ運ばれた。
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