カナデとの出会い、そして約束

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カナデとの出会い、そして約束

ココでは、戦闘に巻き込まれた市民も運ばれており、ある程度の設備が整った野戦病院に緊迫した空気が流れた。 「少佐が負傷している。急いで緊急オペをする」 長髪の軍医マルクスがタンカに乗せたイブキを手術室へ運びオペの準備を始めた。マルクスが傷口を確認すると苦悶の表情を浮かべた 「心臓と肺がやられている」 「ですがマルクス先生このままでは少佐は…… 」 すると、手術室に一人の看護師が入って来た 「大変です。ある少女が頭を撃たれて重傷を負っています」 医師たちが頭から大量の血を流している少女を運びベッドの上に寝かした。マルクスは少女の瞳孔と首筋の脈を確認するが 「ダメだ、この子は助からない」 マルクスの言葉に看護師たちは泣き出してしまう。するとマルクスはハッと我に返りある事を思い出した。 「そうだ臓器移植だ。以前論文で読んだことがあって人体では初めてだがこれに賭けるしかない」 マルクスは、急いで亡くなった少女から心臓と肺を取り出しイブキに移植手術を施した。 「ルイス将軍の娘は俺が必ず助ける。俺は将軍に命を救われたんだ。今度は俺が恩返しをする番だ、絶対に死なせるものか。この世界でお前は絶対に必要な人間なんだ」 医師たちの懸命な治療のおかげでイブキの移植手術は無事成功を収めた。 その頃イブキは、誰もいない壮大な草原の真ん中で一人たたずんでいた。優しいそよ風が周りの甘い草花の香を混ぜながらイブキの身体を優しく包んだ。 「ここはどこ? 」 イブキは仲間たちの名前を叫び辺りを探し回るが誰も見当たらなかった。 「私は死んでしまったのか…… 」 死を覚悟して途方に暮れるイブキの耳に微かに風の音に混ざって優しい音色が聴こえた。 「なんだろう? この温かい音色は」 イブキが誘われるように音が奏でる場所へ向かうと、10才くらいの白いワンピースを着た綺麗な赤髪の少女がフルートを演奏していた。優しい音色はまるで天使の歌声のようだった。 「とてもいい曲だ」 イブキが少女へ問いかけると少女はピタリと演奏を止め答えた 「この曲は天使のレクイエムって言うんだよ」 「あなたは一体? 」 「私はカナデだよ」 「私はイングラム117歩兵部隊隊長、イブキ少佐だ」 「大丈夫、お姉ちゃんの事は知っているわ」 カナデの言葉に驚くイブキに彼女は経緯を説明した。 「私はドルイ帝国に殺されたの。でもあなたを助けるために私の心臓と肺をあなたの身体に移植したのよ」 「でも私は戦争が大嫌い。なぜ人同士で殺し合わなければいけないの? 」 カナデは悲しい表情を浮かべながらイブキに問いかけた。 「それは、明日の未来をつかみ取るための手段だ」 イブキが答えると更に悲しい表情を浮かべてカナデが答えた。 「私は戦争を平和的解決で終わらせたいの、そのために私のフルートで傷ついた人たちを癒してあげたいの。でもその夢は叶いそうにもないわ」 カナデの父は元々軍の音楽隊に所属していた。父親もフルートを演奏して仲間たちを癒していた。しかし先のドルイ帝国との戦いで戦死してしまいカナデは、父のような犠牲者を出したくない想いで形見のフルートを必死に練習した。 「そうだったのか…… 」 「お姉ちゃんにお願いがあるんだ。私の代わりにお父さんから貰った形見のフルートで人々の心を癒してあげて。そして平和な世界を創り上げて」 イブキは悲しそうな表情で見つめるカナデに心が揺れ動かされた。何故ならカナデのお陰で自分が助かったことを感謝していたからだ。義理深い性格のイブキは 「分かったわ、あなたのお陰で救われた命、この命が燃え尽きるまであなたの夢を叶える為に頑張る」 「ありがとう、あとママにもよろしく伝えて」 カナデはにっこり笑って風と共に消えていった。次の瞬間イブキが目を覚ますと病院のベッドの上だった。胸には痛々しい手術痕があり包帯が巻かれていた 「私は生きていたんだ」
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