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旅立ち
ガラガラガラ
「イブキ少佐、お目覚めかな? 」
イブキの手術を執刀したマルクスが病室に入って来た。
「あなたは? 」
「失礼、私は軍医のマルクスだ。君の親父さんには色々と世話になったよ」
マルクスは今までの経緯をすべて語った。
「そうだったのか、隊は全滅、そして生き残ったのは私だけか」
「残念ながらそうだ」
マルクスは白衣のポケットから折れ曲がったタバコを取り出し、吸いながら答えた。するとイブキが
「カナデという少女は? 」
マルクスは驚いた表情を見せた
「なぜ彼女を知っている? 」
イブキが夢で起きた出来事をすべて話すとマルクスは棚の奥から銀色のフルートを取り出した。
「あの子が運ばれたときに大切に握っていたモノだ」
マルクスはイブキにフルートを手渡すと、フルートを強く握りしめベッドから起き上がり痛む傷を抑えながら窓の外に近づいてフルートを演奏した。
その音色はカナデの演奏とそっくりだった。
「まさか、臓器移植による記憶と才能の遺伝が起きたのか? 」
イブキは臓器移植により才能、記憶の遺伝そしてカナデの性格も遺伝しため争いを嫌う穏やかな性格へと変化していった。
それから数か月後、イブキは陸軍本部を訪れ除隊を申し出た。イブキが除隊理由を告げると
「何を馬鹿な事を言っているんだ。音楽で平和を築きたいだと? お花畑にでも行ったのか? 」
「私の未熟さで大勢の尊い命を失ってしまいました。その責任を取るのと私はある少女と出会ったことで目覚めました。殺し合いでの解決は間違っていると思ったからです」
すると陸軍幹部たちは呆れた顔でイブキを見下していた。
「英雄ルイス将軍が聞いたらどんなに嘆くことやら」
「戦争では何も解決できません。ただ悲しみと憎悪を永遠に生み続けるだけです。私が必ず音楽を通じて人との懸け橋になってみせます」
「君には失望した。除隊ではなく除籍処分だ。二度と顔を見せるな、恥さらしが」
イブキは汚名を着せられる形で除籍処分となった。まずは若い兵士のペンダントを故郷の母へ渡すために当てもなく一人で首都ロドソンを彷徨っていると、あるトラックの広場へたどり着いた
「ここならヒッチハイクが出来るかもしれない」
イブキはガラの悪い男たちに連れて行ってもらえるように交渉をするが
「ダメだ。何の得にもならねえ」
「どうしても行きたいんです」
「しつこいんだコラ」
「私は争いごとが嫌いです。平和的に解決できませんか? 」
すると1人の男がイブキのフルートに興味を示すと
「姉ちゃん、そのフルートで何か演奏してくれよ。満足出来たら連れてってやるぜ」
するとイブキは夢でカナデが演奏していた天使のレクイエムを披露した。癒しの音色は男たちだけでなく通りかかった通行人の足も止めるほどだった。音色と風が調和した天使のベールに包まれその場にいた人の心を穏やかにさせた。
パチパチパチパチ
「すげえぜ、こんな綺麗な音色は聞いたことないぜ」
「ありがとうございます」
「気に入った。乗せて行ってやるぜ」
イブキは挑発的だった男に気に入られペンダントを渡すため彼の故郷へ向かった。三日三晩走り続け麦畑が広がるのどかな村へ到着した。
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