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どうしてだ? 昨日帰る時も、朝も普通だったじゃん。キスしたあとも、頬染めて「またキス、しよーな」とまで言ってたじゃん。
でも後々、後悔したとか? 時間が経って来るに連れ、俺の口が臭かったとか、顔がキモかったとか思い出して、嫌になってきた……?
「蓮見、キス……したのか?」
同じ美術選択で同じ机に着いているスイカに、突然に声をかけられる。
「はっ? キス? お、お前、なに言ってんだよ!」
俺は派手に音を立ててイスから立ち上がって、声を張ってしまった。
途端に教室がしーんとして、皆の目線が俺に向く。もちろん先生の目線も。
「蓮見くん、寝言は夜寝てからね。今は授業中だから、しっかり描くように」
美術の先生の冷ややかな怒りの声と、クロッキー帳に図鑑の絵を模写していた生徒の迷惑そうな視線が刺さり、静かに頷いて席に着く。
スイカは俺に体を寄せ、コソコソ声で話しながらニヤリと笑った。
「なんだよ、蓮見〜びっくりするじゃん。魚図鑑開いて鱚の絵を見てるから、模写する絵を鱚にしたのか、って聞いただけなのに。……なに、あっちのキスのこと、考えてたとか?」
スイカは察しのいいところがある男だが、やめろ、その野次馬顔。
「あるわけないだろ、こんな俺が」
「ま、そう言えばそうか。蓮見じゃな」
オイ! 投げ掛けといてそれかよ。
聞けよ、突っ込めよ。その蓮見がお前らの大好きなユミとキスしたんだよ!
……どうせお前もユミとやったことあるんだろうな。ふん。でも俺は「またしよーな」って言われてるんだぞ? スイカは言われたのかよ。
ああ俺、おかしい。昨日まで「男友達同士でキスなんかおかしい」って断言していたのに、何故こんなにムキになってるんだ。
そして、どうして他の奴とユミがキスしたのかも、って思うと胸が痛くなるんだ。
……わかってる。これか恋するってことだろ。
でも、わかっててもむしゃくしゃするんだよ。恋なんか大概は上手くいかないものだって知っているのに、始まってもいない相手にやきもちを焼いている。
俺の胸はどうしてもムカムカを抑えられず、クロッキー帳に書いた鱚は真っ黒焦げの焼き魚になっていた。
***
選択授業から戻ってもユミと話すきっかけが掴めない。今日に限って常にユミの回りに人が取り巻いていて、全然二人で話せないのだ。
モヤモヤ……。いつまでも、どうしても消えない。
こんな感じ、嫌だ。モヤモヤしてどうするんだよ。そもそもユミに他意はなかったんだ。ただ、他の奴らともキスをしたから、俺はどうなのかなって思って試したくなっただけだろう?
俺は……俺もこんなふうになるだなんて思いもしなかったけど、初恋は幼稚園の先生で、それ以来恋もしていない奥手な男たから、あのキスとユミの照れた笑顔だけで簡単に堕ちてしまって。
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