side蓮見桂 ②

2/3

152人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 どうしてだ? 昨日帰る時も、朝も普通だったじゃん。キスしたあとも、頬染めて「またキス、しよーな」とまで言ってたじゃん。  でも後々、後悔したとか? 時間が経って来るに連れ、俺の口が臭かったとか、顔がキモかったとか思い出して、嫌になってきた……? 「蓮見、キス……したのか?」  同じ美術選択で同じ机に着いているスイカに、突然に声をかけられる。 「はっ? キス? お、お前、なに言ってんだよ!」  俺は派手に音を立ててイスから立ち上がって、声を張ってしまった。  途端に教室がしーんとして、皆の目線が俺に向く。もちろん先生の目線も。 「蓮見くん、寝言は夜寝てからね。今は授業中だから、しっかり描くように」  美術の先生の冷ややかな怒りの声と、クロッキー帳に図鑑の絵を模写していた生徒の迷惑そうな視線が刺さり、静かに頷いて席に着く。  スイカは俺に体を寄せ、コソコソ声で話しながらニヤリと笑った。 「なんだよ、蓮見〜びっくりするじゃん。魚図鑑開いて(キス)の絵を見てるから、模写する絵を鱚にしたのか、って聞いただけなのに。……なに、あっち(・・・)のキスのこと、考えてたとか?」  スイカは察しのいいところがある男だが、やめろ、その野次馬顔。 「あるわけないだろ、こんな俺が」 「ま、そう言えばそうか。蓮見じゃな」  オイ! 投げ掛けといてそれかよ。  聞けよ、突っ込めよ。その蓮見がお前らの大好きなユミとキスしたんだよ!  ……どうせお前もユミとやったことあるんだろうな。ふん。でも俺は「またしよーな」って言われてるんだぞ? スイカは言われたのかよ。  ああ俺、おかしい。昨日まで「男友達同士でキスなんかおかしい」って断言していたのに、何故こんなにムキになってるんだ。  そして、どうして他の奴とユミがキスしたのかも、って思うと胸が痛くなるんだ。  ……わかってる。これか恋するってことだろ。  でも、わかっててもむしゃくしゃするんだよ。恋なんか大概は上手くいかないものだって知っているのに、始まってもいない相手にやきもちを焼いている。  俺の胸はどうしてもムカムカを抑えられず、クロッキー帳に書いた鱚は真っ黒焦げの焼き魚になっていた。 ***  選択授業から戻ってもユミと話すきっかけが掴めない。今日に限って常にユミの回りに人が取り巻いていて、全然二人で話せないのだ。  モヤモヤ……。いつまでも、どうしても消えない。  こんな感じ、嫌だ。モヤモヤしてどうするんだよ。そもそもユミに他意はなかったんだ。ただ、他の奴らともキスをしたから、俺はどうなのかなって思って試したくなっただけだろう?  俺は……俺もこんなふうになるだなんて思いもしなかったけど、初恋は幼稚園の先生で、それ以来恋もしていない奥手な男たから、あのキスとユミの照れた笑顔だけで簡単に堕ちてしまって。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加