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刑務所で、神澤 紀之が殺された。
紀之は俺が以前、小暮殺しで逮捕した受刑者だ。
事件の報を受けた俺と吉澤は現場に急行した。
刑務官に話を聞く。
話によると、朝礼の時間になっても庭に出てこない神澤を不審に思い、部屋へ見に行くと、ナイフで刺されて死んでいたという。
死因は心臓を一突きされたことによるショック死だ。死亡推定時刻は昨晩の消灯後。見回りをした刑務官によると、その時は異常はなかったという。
刑務所内での殺人。いったい誰が殺したのか。
俺は所内の防犯カメラをチェックした。
所内には受刑者の部屋それぞれに防犯カメラが設置されている。
映像を確認すると、消灯後に催したのか、神澤が部屋を出ようとするところが映っていた。
しかし、神澤はトイレには行かず、ベッドに戻って蹲った。この時点ですでに刺されていると思っていいだろう。
そして、朝になり、朝礼に来ない神澤の様子を見に来た刑務官が、遺体と成り果てた神澤を目撃した。
「——というわけです」
俺は現場を確認する。
受刑エリア内なら部屋の出入りは自由化されている。
誰かが外側から神澤を呼び、部屋の外で刺したとも考えることは可能だ。
そうなると、犯行が行えるのは他の受刑者か、刑務官に限られてくる。外部から侵入するのは難しいだろう。
受刑者が犯人だとして、一体どうやって犯行に及んだのか。
俺は部屋の外のカメラ映像もチェックしてみる。
映像には受刑者用の服を身につけた男が、神澤の部屋の前で立ち止まり、扉を開ける瞬間が映っていた。
開けられた扉は数秒後、閉められた。
時間は深夜の見回り後の午前三時ごろだ。
不審人物は後ろ歩きをしながら、カメラに顔を映すことなく、フレームアウトした。
俺は刑務官から再び話を聞く。
「昨日の作業は何でした?」
「調理実習がありましたね。その時、ナイフが紛失したんですけど、もしかしてそれが凶器に使われたんですか?」
「まだわかりませんね」
「そうですか」
受刑者からも話を聞くが、皆非協力的だった。
そりゃそうだ。自分たちを逮捕した警察官が相手なのだから。
あ、そうだ。
俺は神澤の霊を捜した。
「あ」
刑務所の外で、タクシーを拾おうとしているが、尽く無視されている神澤の霊を見つけた。
「神澤さん」
振り返る神澤。
「あ、あの時の」
「その節はどうも」
「あの、これ夢ですよね?」
「はい?」
「夢だから、壁をすり抜けたりするんですよね?」
「いえ、あなたは殺されたんです」
「え……」
「今日未明にあなたの部屋を訪れたのは誰ですか?」
「えっと……確か、見覚えのある顔でした。刑務官だったような……」
「それは確かですか?」
「はい」
「受刑者ではないんですね?」
「はい」
俺は所内に戻る。
受刑エリアに入り、リーダー格と言われている受刑者の胸ぐらを掴んだ。
「おい、受刑者の服を刑務官に貸したやつを教えろ」
「知らねえよ」
俺は胸ぐらを放すと、同時に突き飛ばした。
壁に背中をぶつける受刑者。
「てめえ!」
受刑者がキレて襲いかかってくるが、俺は逮捕術で押さえつけた。
「神野だよ! 神野が金で買われたんだ!」
「神野?」
俺は神野という受刑者に接触した。
「何だよ?」
「あんた、刑務官に金で買われたらしいね」
「な……?」
「誰に服を貸したの?」
「福崎だよ。って、まさか?」
「そのまさかよ」
俺は刑務官に聞いた。
「福崎刑務官は?」
「福崎なら、今日は夜勤明けで家に帰ってますよ」
「福崎さんはどういう方なんですか?」
「最近、入ってきた方だからよくはわからないんだけどね。福崎が何か?」
俺は福崎の住所を聞き、向かう。
ピンポン、とチャイムを鳴らす。
「はい」
と、男が出てきた。
「福崎刑務官ですか?」
「えっと、そうだけど」
「署までご同行願えますか?」
「断る」
「え?」
「そんなことより嬢ちゃん、俺とヤラねえか?」
「何言ってんだバカ!」
俺は福崎を蹴り倒した。
「って、あんた、もしかして小暮……?」
「あ? 小暮……!? って、お前あの時の刑事か」
「小暮さん、ヤクの次はあんたを殺した犯人への復讐か?」
「ああ、まあな」
「店員さん、よく許したな」
『うちを利用する人に殺人をするなという規約は設けておりませんので』
「小暮さん、出頭してくれない?」
「いやだね」
小暮はそう言うと、家の中に引っ込んでしまった。
「待って!」
扉を開け、中に入るが、小暮はいなかった。
窓は全て施錠されている。
「あの世に逃げたか」
俺は警視庁に戻り、福崎が犯行を認めて逃走したことを話した。
警視庁は非常線を張り、福崎の行方を追うが、依然として見つからない。
当然だろう。福崎なんて人物、この世には存在しないのだから。
俺もか。
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