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その日、俺は死んだ。
交差点を渡っている最中、赤信号を無視して突っ込んできたトラックに撥ねられて。
トラックの運転手は、どうやら居眠り運転をしていたようで、ブレーキが間に合わず、気づいた時にはすでに俺は路面に叩きつけられていて、手の施しようがなかったという。
ああ……短かった俺の人生。
まだまだやりたいこと沢山あったのに……。
そう思った刹那、俺は光に包まれた。
そして、光に包まれたかと思うと、今度はファンタジー世界にありがちな景色が見えてきた。
異世界転生か、と思いきや、どうやらここはあの世であると住人から説明を受けた。
俺は幽霊などの類いは信じてはいなかったが、まさか本当にあの世が存在するとは思わなかった。
新参者の俺は、あの世とやらを見物していた。
「んあ?」
<レンタルボディショップ>と書いてある建物を見つけて思わず声を漏らした。
レンタルボディショップ。ずいぶんと興味を唆られる名前だが……。
俺はとりあえず中に入った。
「いらっしゃいませ」
店員らしき人物がカウンターの向こうで挨拶をする。
俺はここが何か訊ねた。
店員曰く、ここは現世で活動するための肉体を貸し出すお店だという。
もしかして俺が今まで会ってきた人間の中にこれを利用しているやつもいたのだろうか。
「お客様、いい体揃ってますよ」
店員がカタログを持ってくる。
カタログには老若男女全てが掲載されている。
「お客様、こちらの方なんていかがですか? 今、多いんですよ。女性の体を求める男性が」
そうなのか。
「お試し、みたいなのないの?」
「お試し、ですか」
店員はカタログのページをめくり出した。
「では、これなんかどうでしょう?」
端正な顔立ちをした女性が写っている。
「可愛いですね」
「こちらになさいますか?」
「えっと、こっちのお金ないんですけど」
「お金? いえいえ、カルマを消費させていただきます」
「カルマ?」
<カルマ>というのは、生前に行った善行や悪行のポイント数で、善行がプラス、悪行がマイナスというものらしい。
「お客様のお名前、教えてもらえますか? 死亡者リストと照合しますので」
「柏木 充です」
「柏木 充様ですね」
店員がパソコンを操作する。
「本日、こちらに来られた、トラックに撥ねられた方で合ってますか?」
「はい」
「ではカルマを引かせていただきますね。……おや?」
「どうしました?」
「お客様、カルマがマイナスになりました」
「マイナスになるとどうなるんですか?」
「そうですね。こちらの説明もしときましょうか。カルマがマイナスになると……」
カルマがマイナスになると、現世に降りた時に不運に見舞われやすくなるようだ。もちろん、現世で善い行いをすると、プラス方向に上がるという。逆に犯罪に手を染めたり、警察に捕まるようなことをすると、マイナス方向に下がるらしいのだ。
「どうされますか?」
「まだやりたいことあるんで、行かせてもらえますか?」
「わかりました。では、お体をご用意しますので、少々お待ち下さい」
店員が店の奥に入っていく。
数分後、姿を見せる店員。
「準備が整いました。こちらへ」
店の奥へと案内される。
ベッドの上に、カタログで見た女性の体が横たわっている。
「それではこちらのお体に重なって下さい」
「待って。これ裸だよね? この状態で降りるんですか?」
「オプションを追加なされますか?」
「流石に裸で降りたら犯罪でしょ」
「ですね。では今回は特別サービスしときましょう」
店員が女性の体に洋服を着せた。
「そうだ。もう一つ聞いときたいんだけど、人間としての機能は持ち合わせてあるんですか?」
「ええ、もちろんですとも。本物同様の機能がありますよ。性交渉をすれば妊娠もします」
「まじか!」
「ええ」
俺は女性の体に重なる。
すると、吸い込まれるかのように体の中へと入っていった。
「それでは、あちらのゲートを抜けて下さい」
店員が指し示した先を見ると、光り輝く扉があった。
「幽霊って見える?」
「リミッターを外せば見えますが、外しますか?」
「できれば」
「わかりました。オプションとしてカルマを引かせてもらいますね」
店員が俺の後ろから頭部を弄る。
「リミッターは外しました」
「ありがとう」
俺はゲートを潜り抜けた。
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