1.借り物の体で現世

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 光のトンネルを抜け、辿り着いたのは、誰もいない廃墟と化した病院だった。  なんでこんなところに出すんだよ。 『すみません。人気のないところでないと不可思議現象になりますからね』  店員の声が脳裏に()ぎる。 『ちなみにこちらとは常に交信できる状態にありますので、お戻りの際はこちらにご連絡下さい』  なるほど。それは便利だ。  そういえば、先ほどリミッターを外したみたいだけど、霊を見る以外に何かあるのか? 『俗にいう霊能力というのが発揮できますよ。現世にいる霊能力者と呼ばれる方々はこのリミッターを外した仮の肉体を使っています』  それはすごいことを聞いてしまった。  俺は歩き出す。  それにしても、薄気味悪いところだ。  早く出よう。  俺は廃病院を出た。  店員さん、この女性の名なんだけど。 『特にこちらでは決めていません』  そうか。  家、帰るか。  俺は生前の家に向かった。  俺の住んでいた家はボロいアパートの一室だった。  俺が亡くなったということで、生活に使われていた家財(とう)は全て運び出されていた。  あ、よくよく考えてみれば、俺無職じゃん。金ないから家に住めないじゃん。  どうしよう? 『お戻りになられますか?』  いや、いい。  そういえば、近くに住居支援があったな。  俺はNPO法人の住居支援所へと向かった。  住居支援を受けた俺は、仕事を探す。ホームレスにはなりたくないからな。  近くの職業安定所へ足を運び、求人票を確認する。  だがしかし、自分に合いそうな職は見つからない。  そうだ。  俺は最寄駅の交番に移動した。 「どうされました?」  警察官が訊ねる。 「採用パンフレットありますか?」 「少々お待ち下さい」  警察官が机の引き出しを開けた。 「こちらですね」 「ありがとう」  俺はパンフレットを受け取った。 「お嬢さん、連絡先教えてもらえますか?」 「あ、すみません。私、今、家なくて。住居支援受けてる身でして、電話も携帯もなくて」 「そうでしたか」 「それじゃ」  俺は交番を出る。  事故の日、実は俺は警察官採用試験に合格し、警察学校に向かっている途中だった。  だが、不運なことに死んでしまったのだった。 「さて」  住居に戻り、書類に必要な情報を書き込み、ポストに投函する。  後日、中途採用の採用試験を受け、見事合格した。  その後、警察学校での厳しい教育を受け、晴れて現場へと配属になった。  配属先は、警視庁である。
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