美しき被写体

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 その日以降、僕は何度も公園に足を運んだ。にもかかわらず、彼にはなかなか会うことが出来ずにいた。 「またね」と言ったはずの彼が姿を一向に現さない。  それはどう考えてもオカシイ事だった。  だって、彼は僕にまた会いたいと思ったからそう言ったはずなのだから。  ふと、公園でうたた寝してしまうぐらい疲れているようだし、もしかしたら仕事が忙しくて、ここに来たくても来れないのかもしれない。  そういう結論に至った僕は、彼に関する手掛かりがないか写真を何度も見返した。そこで胸元に付けていた社章に気づく。拡大して何とか会社を割り出した僕は、すぐさま彼を探しに会社の外で待ち伏せした。  彼は姿を現したけれど他の人と一緒で声をかける事が出来なかったし、声をかけたところで何を話せばいいのか僕には分からなかった。  それでも跡を付けて、彼の住むアパートを知ることができた。写真にも何枚か収める事に成功した僕は、その日は興奮でなかなか寝付けなかった。  写真の出来栄えも完璧で、彼を被写体にした写真は日に日に増えていく。  高校に通いながら彼に会うのはなかなか大変だったけれど、僕はそれを苦には思えなかった。  初めて会ったあの日から一年。  この写真をそろそろ彼に見せようと僕は考えている。なぜなら彼はあの公園に来てくれないからだ。  この写真を見せれば、きっと彼は喜んでくれるだろう。彼も写真をやっていたのなら、この素晴らしい写真を一目で理解してくれるはずなのだから。  そちらが来てくれないのならば、やっぱりこちらから会いに行ってあげなければ。  彼だって今でも、僕の撮った写真を見たいと思っているはずなのだから――
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