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 アラーナは、シエラに寝台に連れて行ってもらったが、中々眠ることも出来ず、お風呂に入ろうと立ち上がった。この城は天然の温泉が引いていることもあって常に温かいお風呂に入ることが出来るのだ。  客間にもそれほど大きいわけではない浴室があり、アラーナはそこに浸かって、強張った身体をほぐそうと四肢を伸ばした。  改めて自分の身体を見れば、あちこちに赤い徴が散っており、それがアルベルトのキスの痕だということに気付いて真っ赤になる。  ゆっくりと湯に沈み込めば、何時間か前のことが思い出されて、アラーナは恥ずかしくてたまらなくなる。アルベルトは優しく抱いてくれたのだろう。とても恥ずかしかったし、みんなはあんなことをしているのかと思うと驚いてしまう。  胸もアルベルトを受け入れた場所も、未だヒリヒリとして、忘れることはできない。 「やっぱり、私は駄目だわ・・・・・・」  アラーナは、四年も離れていたのに少しも色あせずにアルベルトを愛していた。あの頃とは違うところもあるだろうけど、アルベルトはやはり優しかったように思う。  ぼんやりと、アルベルトの身体を思い出して、アラーナは思わず赤面してしまう。男の力はとても抗うことが出来ないほど力強かった。どの行為も最初は痛かったり恥ずかしかっただけなのに、あっという間に未知なる快感でアラーナをさらっていってしまった。流された先は更なる気持ちよさが待ち受けていて、アルベルトにしがみつくことしかできなかった。  アラーナが物思いにふけっていたその時、扉が突然開いた。侍女たちのような動作ではなく、乱暴なというべきか性急というような表現が、ぴったりの粗々しい扉の開き具合に、アラーナはまさかまたリシェール・バルサムではないかと恐怖で顔を強張らせた。 「アラーナ――・・・・・・、ここにいたのか」  そこにいたのはアルベルトだった。正装といっても過言ではない白い装束は、今から夜会にでもいくかのようだった。 「ア、アルベルト様?」  とっさに身体を洗うための布で胸元を隠し、湯の中で身を縮めるアラーナに、アルベルトは「さっき見たから気にするな」と言った。 「そういう問題ではありません――。こんなところにそんな服でいらっしゃるなんて――」  泣きそうな顔のアラーナに、アルベルトは持っていた花束を渡そうと、差し出す。  アラーナは、自身の格好も忘れて、薄紅色の瑞々しい花束に目を瞠り、アルベルトを見上げた。  アルベルトは、アラーナの困惑などまるで気付かないような笑顔だ。 「アルベルト様っ・・・・・・」  アラーナは、自身が裸であるとか、アルベルトが国王だとかそんなことは頭の端にも残らなかった。  怒りというよりは、悔しさだろうか、アラーナの心を引き裂いたのは――。  その薄紅色の花は、アラーナが実家のアレント伯爵家から株分けしてもらったものだった。アラーナは、王城の温室でその花を育てていた。花につく虫を除けることもしたし、余分な葉を摘んだりしながら、アルベルトにも話したことが何度かあった。  アラーナの両親は仲がとてもいい。母に父が求婚したときに、この花を捧げたのだという。両手に余るほどの花束をもって父は、母に愛を囁き、母はそれを受けた。小さいころから繰り返し聞いていた話をするたびに、「アルベルト様もこの花を摘んで私に愛を囁てくださいね」とアラーナは、図々しいと思われてもおかしくないお願いをしていたのだった。  何故この花を持ってきたのかと考えるより先に、アルベルトはアラーナを侮辱しに来たのだと思ったのだ。  アラーナは、浴槽から立ち上がり、アルベルトの横を通り抜けた。 「アラーナ?」  困ったようなアルベルトが、アラーナの手を掴んだ瞬間、アラーナは無意識にアルベルトの手を払い、振り向きざまに頬を打った。  浴室にアラーナの打擲が響いた。  子気味いいほどの音に互いが、驚き静止する。 「私のことを、それほど――・・・・・・」  アラーナは何とか声を出したが、自分が誰を叩いてしまったのか、何故こんなことになっているのか、混乱して泣き出してしまった。  アルベルトは勿論、アラーナを馬鹿にするつもりもなかったから、アラーナが怒っている意味などわからなかった。ただ、泣いているアラーナを愛しく思い、側にあった幅広の布でアラーナの裸体を包み込み、抱き寄せた。 「アラーナ、嫌いじゃないんだ――。愛しているんだ――」  アルベルトは、アラーナを抱き上げて浴室を出た。アラーナは抗わなかったから、アルベルトは言葉なく泣き続けるアラーナの濡れた身体を布で拭い、ナイトガウンを着せかけた。  髪をそっと押すようにして水分をとっても、アラーナの頬を濡らすものは止まる気配がなかった。  チュッと髪に口付けして、アラーナの前にアルベルトは跪く。少し濡れてしまった花束を差し出して、アルベルトはアラーナに愛を乞うた。 「アラーナ、愛している――。私のところに来てくれないだろうか」  国王であるアルベルトが頭を垂れる姿をアラーナは涙の膜の向こうから見ていた。震える唇が、アルベルトの望む言葉を紡ぐことは出来ない。 「嫌です――。アルベルト様のところには行きたくないっ」  アルベルトは、アラーナが自分を好いているだろうと思っていた。アラーナの態度や言葉の端々には、アルベルトへの愛が溢れていたように思えたからだ。 「私が、嫌い・・・・・・なのか?」  アラーナは、ただ単に乙女を捨てるだけにこの王城に来たというのだろうか。 「他に好きな人がいるのか?」  それなら好きな人のところに行くだろう。 「私が許せない――?」  四年前のことがやはり許せないのだろうか。  アルベルトの言葉にアラーナは首を横に振るだけで、何も応えようとしなかった。 「アラーナ、私を愛していない?」  情けない男だと言われてもアルベルトは、縋るような気持ちでアラーナに尋ねずにはいられなかった。  アラーナは、言葉を発するのを恐れているようでもあった。唇が戦慄き、指で自身のナイトガウンの端を握りしめている。  何度も言葉を紡ごうして失敗するアラーナからは、アルベルトを嫌っているような素振りはない。 「国王陛下の・・・・・・妾妃になりたくない・・・・・・のです・・・・・・」  敢えてアラーナは、アルベルトではなく国王と言った。 「なら、王妃であれば、受けてくれるのか?」 「王妃・・・・・・になりたいわけではありません・・・・・・」  アラーナが嫌がらないのでアルベルトは、そっとアラーナの涙を唇で拭いとった。 「では、私が王でなければ、受けてくれたのか――?」  生まれてこの方、アルベルトは兄弟もいなかったので国王にならない自分というものが想像できなかった。自分は国と民のために生まれてきたと言っても過言でないくらい、国王と自分自身にへだたりなどなかった。  頷いたアラーナに、アルベルトは「そうか・・・・・・」と呟いた。 「私に抱かれるのは嫌じゃなかった?」  アラーナは、固まったままの頬を少しだけ緩ませて「はい」と言った。 「国王でない私のことは、好き?」 「好きです・・・・・・」  気分が良くなって、アルベルトはアラーナを寝台に横たえた。 「国王でない私なら、キスしても嫌じゃない――?」  アラーナは少し戸惑いながら、首を傾げた。 「私が王を辞めたら、アラーナは私のものになってくれるね?」  アラーナは、ハッと表情を改めた。アルベルトに何てことを言ってしまったのだろうと後悔の念が押し寄せてくる。 「アルベルト様は、立派な国王様です。私は、アルベルト様のものになりたかったけれど、アルベルト様に国王を辞めてほしくはないのです」  アラーナの気持ちいい胸に頬を摺り寄せ、アルベルトは「アラーナは酷いことを言うな」と手を伸ばす。 「・・・やぁ・・・・・・っ」  アルベルトがアラーナの足の間に手を伸ばすと、何時間か前に可愛がったその場所はアルベルトの与える快感を思い出したようにすぐに蜜を零し始めた。 「アラーナのここは、私がいいって言ってるよ」  クチャと音が鳴れば、違うとも言い切れない。 「あっ・・・ん・・・・・・駄目――っ」  胸も抗いがたいが、先ほどは許されなかった唇にアルベルトは喰いついた。  戸惑いながらも快感に声を漏らすアラーナの口腔に、アルベルトは舌を伸ばす。アラーナの口の中は、暴いた秘裂と同じように熱く、柔らかかったから、アルベルトはあっという間に自身がもたげてくるのを感じた。 「ん・・・嫌いっ! アルベルト様・・・・・・っ止めて――っ」  好きだといった同じ口で嫌いと言われて、ショックを受けてもよさそうなのに、アルベルトはもう自信をもってしまった。 「アラーナ、愛している――。ごめん、さっき上げた薬は、痛みを和らげるための気持ちよくなる薬で、避妊薬じゃないんだ――。もう、アラーナは私の子供を宿してしまったかもしれない。アラーナ、私はもうアラーナを得るためなら、国王なんていらない。リシェール・バルサムじゃ心配だから・・・・・・、だれか近い王族に押し付けてやる――」  アルベルトの目は真剣で、甘い口調とは裏腹にそれが本当の気持ちだとアラーナに教えた。  アラーナは、アルベルトの本気をその肌で知ることになる。
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