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ガエル青年が人々に夕食時を知らせたのは、ルーベンの部屋からJ.Sが夜の街に消え去って、およそ一時間後のことだった。
食堂の中央に陣取る巨大なテーブル。そこには、この屋敷におけるほぼ全ての人間が揃っていた。
テーブルの中央に陣取っていた女主人が、立った今入室してきたルーベンを正面から見つめていた。まるで、あなたを待っていましたよ、と言わんばかりに。
「フィッシャーさん、あなたが最後ですね」
「らしい、ですね。どうも」
ルーベンは周囲を伺い、スカーレット・ゴートンの前の席に腰を下ろした。空の茶器がそこに既に用意されていたからだ。その席へ誘導でもするように。
余分な席を空けることなく、皆が余りある長大な食卓テーブルの中央に集っていた。
ルーベンの右手側にはカートライトの人間三人が。左手には、やはりもう一組の家の関係者三人が、悲痛や沈痛だのと表現されるべき表情で腰を下ろしている。
親の座る位置。子供の黙する位置。使用人が仕える位置。
それらは合致し、三人ずつが二組、示し合わしたかのようなシンメトリーだった。強いてでも違いを挙げるのであれば、彼らの前に申し訳程度に注がれた飲料の内、傷心中のリリィだけが珈琲であったことくらい。
「さて、これで全員が揃ったわけですわね」
スカーレット・ゴートンの宣言にも似た発言。全員、という単語に緊張が走ったのは、何も彼女のアクセントのせいでないのは明確だ。ただ一人、目線を伏せたままのリリィ・ナイトリーを除いて。
スカーレット・ゴートンは、あくまで自然な所作と共に口を開く。
「食事の前に、私から一言あります。もし、この中に――」
「スカーレット様」
主人の背後に既に回っていた青年が、珍しく口を挟んだ。
「お客様方はお疲れのご様子です。それに――」
「外部の者に依る犯行かも知れない……違う?」
自分の発言に割り込んだ当てつけのように、振り返りもせずに女主人はそう答えた。あくまで彼女の言動は常時のそれだ。むしろ、主人と私的使用人間だけに生じうる信頼感のようなものでさえも見て取れた。
何事もなかったように、彼女は続ける。
「最初に述べておきたいのは、別に私は犯人捜しをしたいわけではない、ということ。それはあくまで我々素人ではなくて、警察組織の方々のお仕事ですもの」
「そうは言いますが、ミススカーレット」
ジェラルド・フィッシャーとして、躊躇うようにルーベンは言う。「昨夜……そう。もう一日近く経っているってのに、まだ何も終わっちゃいませんよ、この痛ましい事件は。場所が場所である以上、あなたにも責任の一端くらいはあるのではありませんか?」
「えぇ、もちろんありますわね。ですから、もしこの中に犯人の方が居るというのでしたら、話し合いの場を設けたいの」
「話し合いの場?」
表面上に加え、内心でも訝しむルーベン。そのままの調子で、彼女は言う。
「そう、話し合い。何も、その方を突き出すようなことはしません。協力して、内密にこの件を処理したいのです」
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