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王子さまと僕
僕はすべての仕事をキャンセルして旅に出た。ゆきと出会った5年前の記憶をたどり、彼女といっしょに過ごしたことを順番通りに。
ゆきの笑顔を思い浮かべ、あの楽しかった日々を回想した。思い出補正が掛かっているのは充分承知の上だ。でも、本当に彼女との時間はすばらしくて毎日が色鮮やかだった。
日本中をオートバイで旅する中で、僕は考え続けていた。自分はいったい何をしたかったんだろう?
旅から戻った僕はあの喫茶店でゆきを見つけた。
「あんた、ホントに遅いんだから。待ちくたびれたよ。」
「ごめん。これあげるから許してくれる?」
小麦の穂を乾燥させて作ったしおりを、僕はゆきに手渡した。それはかつて僕が王子さまから“いいこと”の話を聞いた時にもらったものだった。
「遅いな、きみは。やっと気がついたのかい?」
見上げる夜空にぽつんと星が光り、そう語りかけてくる気がした。
本当に大切なものを僕は見つけたんだ。たぶん。
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