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王子さまと夕日
「王さまならなんでもできると思っていたけれど、夕日を観るのには待たなければいけなかったんだ。」
「まあ、権力者なんて、思ったよりも力がないものです。独裁者がなんでもできるなんて妄想だと思いますよ。」
壊れたオートバイのエンジンのプラグに火が入り、希望が見えてきた僕は少しだけ心にゆとりができていた。
「うん。ぼくはその時、王さまのマントのすその上で、夕日が沈むのをじっと待っていたよ。そのかいがあってとてもきれいな景色だった。」
「それは僕も見てみたかったな。」
その時の会話を思い出しながら、僕は僕の思い通りにならないゆきを見つめていた。残念ながらなのか幸いなのか、僕は独裁者ではなかった。けれど、心の中では自分の思い通りに彼女を操ろうと思っていたのかもしれない。
「まったく、あんたはいつも勝手ばかり。私がなんでもハイハイって聞くとでも思ってた?」
王様でもない僕は素直に待つしかない。
「じゃ、気分転換に、夕日を見に散歩に行こうよ。」
「今度だけだからね。わがまま小僧め!」
夕日に照らされた彼女の顔は怒っているようでもあり、悲しいようでもあった。
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