耳不(ミミズ)

2/5
前へ
/5ページ
次へ
変だと思いながら、女の前を通った。 どんな服を着ていただろうか…。 女からは金木犀の香りがしたのだ。その香りが強烈で美しく、服なんて目につかなかった。 どんな香水でもない匂いだった。 自然のままの香りだった、それからはとんとん拍子だった。 女の近くの席に座り、目を修行僧の様に瞑り、彼女の匂いが来るのを待っていた。 彼女の度々香る匂いが、彼女の存在を僕に教えてくれていた。 会社からの電話も、電車の中の雑踏も顔の耳に入らなかった。 鼻腔を酷使したせいか匂いがしないと思い、目を開けて彼女の所在を確認したが最早いなかった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加