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もう一度、あの匂いを嗅ぎたい。
そう思って、ゆっくりと田園風景を後に這いずって行った。
ミミズの様な生き物だと思った。
図体のデカい、頭の悪いミミズだった。
私の人生はなんだったのだろうか、小学校、中学校、高校、大学、そして社会人。
数えるほどの恋をして、今や顔も思い出されない友達を作った。
これまで、頑張った勉強も築いた地位も、最早いらなかった。
私の記憶をキレイさっぱり消去して、我がもの顔で胡座を掻くあの匂いを嗅ぎたかった。
「金木犀の香り」
いつしか、私はイチジクの木の下に居た。
街灯も無く、星明かりで這うのが精一杯な場所だった。
先ほどから頭がぐわあんぐわあんと鈍痛を響かしていた。
空がとても遠くに見えていた。
木になっているイチジクを立って取ることも億劫で、下に落ちている蛆が湧いてるイチジクを食べた。
喉が潤された。
死ぬしかないのか、私は、何度も帰れた筈だ。
普通の人生に。
今考えると彼女は魔性の女だったのだろう、又は人を魅惑する淫魔か、もしかすると神だったのかもしれない。
そのどれかだったとしても、横暴が過ぎる、川辺の石を海に投げ込むのは酷過ぎる。
「匂いが嗅ぎたい」
あぁ、今や、顔を思い出せない、お母様。
あぁ、今や、顔を思い出せない、お父上。
あぁ、昔は、人であっただろう、この私。
最早、匂いを嗅ぎ、死ぬ意外に私の神の気紛れに虐められた私を救う方法は無い。
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