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それから彼女は喋り倒していた。
恐ろしくなるほどに。
遊園地でのことに始まり、友達の話、家族の話、芸能ゴシップ、この間観たという恋愛映画が微妙だったという話。
あまりにも止まらずに話しているので、そのうち呼吸困難でも起こして、倒れてしまうのではないかと思うほどの勢いで、少々心配になったりもしたが…
不思議ととても幸せを感じていた。
生徒ではあるが、女の子とこうしてどこかに行くなんてことは、そういえば数年なかったのだ。
悪いことをしているという後ろめたさがあり、それが手伝ってか、余計に幸せ感が増しているんだろうか。
気付かないふりというのは長くは続かない。でも、これだけは気付いてはいけないのだ。
そう、これだけはダメなのだ。
「舞くん?」
「ん?」
「大丈夫?何か怖い顔してたよ?」
「ああ…いや、大丈夫だ」
「そう…ならいいけど
もしかして…」
な、何だ…急にそんなに顔を覗き込んで…
勘づかれたか…?
「遊園地怖いの?」
…何かすっごい損した。
「そんなわけないだろ」
「本当に?
実は絶叫系とかダメなんでしょ
あっ!!もしかしてお化け屋敷の方?」
「…っだから!違うっての!」
「またぁームキになっちゃって。
大丈夫だよ!私がついてるから!」
「……」
何だろう…この気持ちは…
むかつく…すっごいむかつく…
なのに…幸せだ。
心得た顔の彼女に苛立っていて、まだまだ弁解をしたいはずなのに、まあいいかこれもと思えてしまう。
ああ…これは本当に参ったな。
気付かないふりってのは難しい。
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