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「いやーでも、哲也が清掃委員会なんて……ぷっ……いや、いいと思うよ。似合ってる」
「あのな。笑いが漏れてんだよ」
清掃委員会の集まりは午後13時からだと聞いた俺は仕方なく、学食で昼食をとることにした。今日の朝まで委員会に入るなんて微塵も思っていなかったからなぁ。
「まぁまぁいいじゃない。なんかこうやって哲也と一緒にお昼ご飯食べるのって新鮮な気分じゃない?」
舞依香は俺をいじれて気分がいいのか、上機嫌で卵焼きを口に運ぶ。
「でも美也子さんのお弁当、本当美味そうだな」
「そうかな? じゃあ一切れあげるよ」
そう言って舞依香は卵焼きを俺の皿に箸で置いた。何だかおねだりしたみたいで申し訳なかったが、美也子さんが作る卵焼きは昔から好きだったので、素直にその厚意に甘えることにする。その卵焼きを一口かじると、ふわっと口いっぱいに卵の甘さが広がっていく。
「どう……かな?」
「うん、美味い! 久しぶりに食べるから昔よりも美味く感じるよ」
「へぇ~、そうなんだ」
俺が卵焼きを全部食べるのを見ると、舞依香は不思議と誇らしげだった。
「実はね。今日のお弁当は私が作ったんだ」
「え、ま、舞依香が!?」
「どうだ、参ったか」
俺が驚くと、舞依香はフフンと鼻を鳴らした。
「いや、本当にうまかったよ」
俺は素直に舌を巻く。やっぱりあの美也子さんの娘だけはあるなと感心してしまう。
「ありがとう。なんか哲也に素直に言われちゃうと照れちゃうな」
その言葉通り、舞依香の頬はほのかに赤かった。
「池ヶ谷先輩にも作ったりしないのか?」
「そ、そんなことできるわけないじゃない! 彼女でもないのに……」
自信なさげに舞依香は俯くが、正直もったいないと思ってしまう。後輩の女の子にお弁当を作ってもらうなんて男からしたら最高のシチュエーションなのに。
「もう……私、行く! 委員会、頑張りなさいよ!」
舞依香は吐き捨てるように「ご馳走様」と言い、そのままばたばた去っていった。……どうしてあいつは恋愛ごとになるといっつも奥手になるのかね。まぁ、あいつにもあいつの思うところがあるんだろう。俺も食器を片付けて、理科室へと向かった。
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